放送開始から40年! 「武田鉄矢」が語り尽くす「3年B組金八先生」秘話

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田原は大人、マッチは柴犬

 生徒たちの演技は、杉田と鶴見以外デタラメでしたが、三原順子も児童劇団出身でした。杉田に向かっていくというか、不良少女の役だけど、一段高いというか、やたらと上から目線の子でした。それに、なかなかの美貌で、大人で、手に負えないというか、三原の前ではちょっとビビッてしまいました。彼女に「不潔っ」なんて言われると、大人でもしょぼんとしちゃう。そんな力のある子でした。

 ある場面で、三原が泣いてセリフが出なくなって一所懸命絞り出し、次の子にバトンタッチしたらその子も泣きだして、その次の子のセリフも歪んだ、ということがありました。そのモニターをクラスの全員で見て、みんな泣いたんですね。こいつらみんなうまくなったな、と思いました。

 ずっと「自分が引っ張らなきゃ」と思っていた杉田も、半年くらいしてほかのやつが一斉に伸びると、3年B組の一員になるんですね。その辺りはおもしろい児童心理で、やっとふざけたりするようになりました。それまでは、15歳の母を演じたことで、電車のなかでからかわれたり、嫌なことがいっぱいあったようなんですけどね。

 近藤真彦は本当にやんちゃで、現場でも怒られてばかりでした。元気盛りの柴犬みたいで、土手に行くと、久しぶりに散歩に出た犬みたいに走り回るんですよね。最初はそれでよかったんですけど、番組全体が真ん中をすぎた辺りから異常になりました。ロケの見物でものすごい人出なんです。マッチと田原(俊彦)とヨッちゃん(野村義男)の3人が出たときは、女の子の行列がすさまじくて、後に「たのきん」になる彼らのブームの最初の波が巻き起こっていました。

 田原はなにか思い詰めていたんでしょうかね、実際に、もう青年の匂いがするような年齢で、もの静かで、いつも拳を握っているような。ヨッちゃんは、目を離すとギターばかり弾いている子でしたね。

 ジャニーズといえば、(事務所社長になる)藤島ジュリー景子さんは、英語が上手なことが上から目線だと見られ、嫌われて泣きじゃくるような役でした。将来、大社長になるとは思いませんでした。演技者に憧れていて、「私なんて死んじゃっていいんだ」というセリフがあると、本当に魂をぶつけてくる。視聴率を気にしていて、徐々に上向いていたのが、自分が主役を務めた回で下がったのはショックらしかったですね。

 男の子たちには、ご褒美にビニ本をあげていました。男の子は色気盛りなんですね。それに対してあまり過剰な反応をするんじゃなく、同調してあげたほうがいい。彼らのクスクス話は元気の素なんです。だから、一所懸命がんばった子には、稽古場の闇でビニ本を渡すんですよね。特にできがよかった子には過激なやつを渡すと、大事にしまって帰るんです。性は共有の明るい話題のなかに置いておかないと、暗くゆがんだりするので、おたがいの性を闊達に笑うほうがいいと。

 緊迫した現場で、野放しにはしてあげていたんですけど、恋が芽生えるんですね。できたのは2、3カップル。誰と誰、とスタッフから聞いても絶対に口外しないルールで。激しい恋の争奪戦もあったみたいです。その後人気者になる人たちにとっても、最後の学園生活のエピソードだったのではないですかね。田原はやっぱりモテましたよ。大人っぽくて女の子の憧れでした。でもマッチは、色気というより元気な柴犬。

暴走族のギャラリー

〈武田の話は、80年10月に始まった第2シリーズに移る。校内暴力がテーマだったこちらのシリーズの平均視聴率は、実は第1シリーズの24・4%を超える、26・3%を記録している。

 そのクライマックスは第24話「卒業式前の暴力2」。直江喜一扮する加藤優と、沖田浩之扮する松浦悟が、友人3人を連れて隣接する中学に殴り込み、学校側の通報で駆けつけた警官たちに逮捕される場面は、大きな反響を呼んだ。〉

 放送室から生徒たちが連行される場面は、ひと続きの撮影ができずに、カットをどんどん重ねていくという手法で、ある場面は「金八先生、お願いします、ヨーイ、ハイッ」。でも、次の場面は「金八先生は出ていませんから、どいていてください」。すると、また急に呼ばれて。だから場面が頭のなかで全然つながりません。そこに「金八先生、ここに来てください。彼らが襲ってきますんで」。で、生徒たちが暴れ、抑えにきた警官や刑事、泣き叫ぶ父兄がいて、それをいくつもいくつも重ねて撮る。やたら悲鳴と怒号ばかりの一日でした。

 この回を担当した演出家は僕と同い年の生野慈朗さんで、彼に、加藤たちが連行されるシーンの「できはどうですかね」と聞いたんです。すると、「ライオンさんが来たぞ、逃げろシマウマさん、みたいな、そんなシーンですね」という、わけのわからない説明をされましてね。私は、事前にはどうなるか聞かされていなくて、できた映像を観ると、私が「優っ!」と叫びながら加藤を庇いに行くところから、バーンとスローモーションになって、中島みゆきの「世情」がドッカーンと流れて、イタリア映画を観ているみたいで、出演者全員、「そう来たか!」と感心したんです。

 優とはいまも時々、酒を飲むんですけど、「撮影がうまくいかなくて」と振り返りますね。ガラス窓を割る段取りとかがうまくいかなかったようで、それで力み返って、舞台劇の国定忠治みたいな妙ちくりんな芝居を始めるんです。

 すると演出家が本番のカメラを回さないから、俺、裏に優を呼んで、「色をつけなくていいから、普通にセリフを読んでごらん。お前、妙に感情を入れるから、全然違うセリフになってるぞ」って、めっちゃ怒ったみたいですね。「生意気な芝居をするな」って。俺は忘れていたんですけど、あいつは「忘れられない」って言います。でも、いま観ても、あの場面は名演技ですよ。優が手錠をかけられて力なく崩れ落ちるところなんて、三船敏郎さんの演技を16、17歳でやったんじゃないかと思うくらい。

 それと松浦悟役の沖田浩之の人気はすごかった。「3年B組金八先生」が一番華やいだ、街の話題だった時代じゃないですかね。悟がロケ地に行くときは、土手に女の子がズラッと並ぶんですね。悟を中心に回っているようでした。

 一方、優の話になると、女の子はもちろんですけどロケ現場に暴走族が来るんですよね。で、遠目に、腕組みをして優をじっと見ている。撮影のとき土手にえらいバイクが並んでいたら、アシスタントディレクターが来て、「先生、暴走族にエンジンを切るように言ってもらえませんか」と。「嫌だよ、俺、殴られるの」と言ったら、「お願いですよ、先生、その恰好をしていたらスーパーマンと同じですから」って。仕方なく「おーい、君たち、悪いな。これからカメラを回すんだ。エンジンを切ってくれ」と言うと、本当に切ってくれた。あのころ、金八先生の力はすごかったですよ。

 暴走族は優にシンパシーを感じていたんでしょうね。優がロケバスに乗り込むとき、革ジャンを着たやつが低い声で「頑張れ、優」と言って、邪魔もなにもしない。本当にマナーのよい立派な暴走族でしたね。

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