トランプの顔に泥を塗った文在寅 米韓同盟はいつまで持つのか

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「民族の核」に心踊らす韓国人

――では、米韓の正式な離婚は当分ない?

鈴置: そう思います。ただ、決めつけは危険です。朝鮮半島では何が起こるか分からないのです。着目すべきは「中途半端な北朝鮮の非核化が始まる時」です。

 不完全であっても「非核化」は米韓同盟の廃棄とセットになる可能性が高い。すると韓国は「離米従北」に舵を切るしかなくなる。

 米国の核の傘を失えば、自前の核を持つか、中国やロシアの核の傘に入るか、あるいは北朝鮮と「民族の核」をシェアするしかないからです。

 図表「朝鮮半島は誰の核の傘に入るのか」で言えば、韓国はケースIV――北の核に守ってもらう――に進むわけです。そもそも、文在寅政権はこれを狙っていると思われます。

 金大中顧問も、先ほど引用した「韓米同盟の瓦解が始まった」(8月24日、韓国語版)の結論部分で、同じ懸念を吐露しました。翻訳します。

・(米韓同盟が消滅すると)韓国は自らを守る力量を育てるか、北朝鮮に我々の安保を託すか、あるいは米国以外の強者を頼って命脈を保つしかなくなる。
・文大統領のこれまでの発言と発想を見れば、彼の頭の中には北朝鮮と手をとって経済を活性化すれば、日本のみならず誰にも負けない「一度も経験したことのない国」に進化できる、との幻想のようなものが存在するようだ。

 金大中顧問は「一度も経験したことのない国」とぼかして書いていますが、要は「核保有国」ということです。北朝鮮は韓国に「北の核と南の経済力を合わせれば、周辺国を見返す強国になれる」と呼び掛けています(第1章第4節「『民族の核』に心躍らせる韓国人」参照)。

 タイミングを見計らい、文在寅政権が「北の核は民族の核だ。南北が一緒になれば我々も核保有国だ」と叫べば、普通の韓国人も心を動かすと思います。ことに、米国に見捨てられると思った時には。

またもや北朝鮮に忖度

――韓国はなぜ今、GSOMIAを破棄したのでしょうか。

鈴置: 政権のスキャンダルを誤魔化すため、との見方が韓国では多い。文在寅大統領は側近中の側近で、最近まで青瓦台(大統領府)の高官を務めていた曺国(チョ・グッ)ソウル大学教授を法務部長官に任命しようとしています。

 しかし、曺国氏の娘の不正入学が発覚。一族ぐるみでインサイダー情報を利用して荒稼ぎしていた、といった暴露報道も相次ぎ、任命は危ぶまれています。それどころか保守は、この問題を政権打倒に使おうと動き始めました。

 追い込まれた政権はGSOMIAを破棄することで国民の歓心を買い、スキャンダルから目をそらさせようとしているのだ、と保守系紙は報じています。

――朴槿恵前大統領が退陣に追い込まれたのと同じ「側近の不正」ですね。

鈴置: 韓国人は今、それを思い出しています。デジャヴです。それだけに、文在寅政権も必死です。だから米国の顔を潰すGSOMIAカードまで切ったのだ、との見方は説得力があります。ただ、それもあるでしょうが、私は北朝鮮への忖度が大きいと思います。

「生意気な日本をやっつけろ。日本とのGSOMIAを破棄すべきだ」との声が韓国の左派から高まると、北朝鮮はすかさず「廃棄せよ」と唱和しました。

 対外宣伝機関の「我が民族族同士」は7月28日に「民心は親日売国協定の廃棄を求めている」(朝鮮語版)で「自衛隊の朝鮮半島への進出を可能にする協定」と非難したうえ、完全廃棄を求めました。

ミサイル乱射は韓国への請求書

 前回の「『四世紀ぶりの孤立』を招いた文在寅、日本と北朝鮮から挟み撃ち」で書いたように、文在寅政権は北朝鮮から三行半(みくだりはん)を突きつけられています。

 米朝首脳会談を仲介したかのように振る舞わせてもらいながら、お礼のドルを送って来なかったからです。米国も韓国のやり口はすっかり見抜いていますから、北朝鮮の非核化を邪魔する対北送金には厳しく目を光らせています。

 北朝鮮は連日のようにミサイルや多連装ロケット砲を撃ちまくっています。韓国への請求書です。同時に「ドルを送らないというなら、南北首脳会談はもちろん、接触さえもしてやらないぞ」と繰り返し恫喝しています。

 文在寅政権の存在意義は「南北の和解」ですから、北朝鮮から三行半を突きつけられると、立ち行かなくなってしまう。そこで、ドルは送れないものの、せめてGSOMIAを破棄することで北朝鮮の怒りを収めようとしたのではないかと思います。

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