トランプの顔に泥を塗った文在寅 米韓同盟はいつまで持つのか
「米国をイライラさせる」のはなぜか
――韓国も「同盟破棄」には反対しない……。
鈴置: 文在寅政権もこの取引の「米韓同盟破棄」部分に異存はありません。この政権の中枢は「米韓同盟が諸悪の根源」と信じる人たちで占められています(第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。
なお、「非核化」の部分は望んでいないと思います。なぜなら米国との同盟を廃棄したうえ、手を結ぶ北朝鮮の核までなくなれば、韓国は核の傘を完全に失うからです。
――米韓両政権が「同盟廃棄」で一致したのに、なぜ未だに続いているのですか?
鈴置: 機が熟していないからです。トランプ政権にしてみれば今、同盟を廃棄してしまえば「北朝鮮の非核化」を引き出すカードを失ってしまう。現段階では「やめる」と大声では言えないのです。北朝鮮にはささやいていますが。
一方、文在寅政権も今は表明できない。親米保守派はもちろん、普通の人までが同盟廃棄には大反対するからです。下手をすれば、政権が倒れます。米国が廃棄を言い出すのを待っているのでしょう。
『米韓同盟消滅』を読んだ、各国の安保専門家からヒアリングを受けました。ことに、米国の専門家の質問が興味深かった。「韓国はなぜ、我々をいらいらさせるのだと思うか?」でした。
「米国の側から同盟破棄を言わせたいのだろう」と答えると、大きくうなずいてメモを取りました。我が意を得たり、という感じでした。米国も、文在寅政権の手口は十分に認識しているのです。
反文在寅デモが始まった
――GSOMIA破棄は、米韓同盟消滅という本質が表面化したに過ぎない、ということですね。
鈴置: その通りです。大きな流れに変わりはないのです。ただそれは「眺める者の論理」。当事者の韓国の親米保守にとっては一大事です。GSOMIA破棄を機に、文在寅政権が一気に本性を現わすのではないか、と真っ青になっています。
保守の大御所、金大中(キム・デジュン)朝鮮日報顧問は「韓米同盟の瓦解が始まった」(8月24日、韓国語版)を書きました。冒頭部分を翻訳します。
・文在寅政権がついに、東北アジアの安保構造を再調整する最初のボタンを押した。その手始めが、2016年に日本と結んだGSOMIAの破棄だ。
・それはそこに留まらず、東北アジアの地図を塗り替え、最後には韓米同盟の構造まで瓦解させるところまで行くだろう。
この「離米従北」への恐怖感は保守から普通の人も共有しています。だから多数の人が参加する「反文在寅デモ」が始まったのです。
『米韓同盟消滅』の作者としては「韓国人も今回の事件で、ようやく米韓同盟消滅という現実に目を向けるようになったな」と、感慨深いものがあります。
それまでは、いくら同盟消滅を示す事実を指摘しても、「米韓は血盟である」といった抽象論で反撃してきました。「見たくないものは見ない」という心情だったのです。
「韓国に情報を渡すな」と日本に通告
――デモは文在寅政権の「離米従北」に歯止めをかける?
鈴置: とりあえずは、かけるでしょう。政権が倒れるリスクをかけてまで、米国との同盟を破棄するほどのハラは、この政権にないからです。
一方、米国も日韓GSOMIA破棄を理由にして韓国と縁を切ろうとは考えない。トランプ政権にとって大問題ではないからです。
米国が面子を潰されたのは事実です。が、しょせん、前のオバマ(Barack Obama)政権が日韓に結ばせた協定に過ぎません。
そもそも、この協定は軍事的には意味がない。韓国は米国や日本の軍事情報を中国や北朝鮮に流している。だから米国は韓国に重要な情報を流さない。日本にも教えないよう通告済みです(第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」参照)。
韓国が日本に出す情報にもたいしたものはない。もし必要があれば、米国経由でとれる程度の情報です。
あくまで「日米韓」の安保協力を北朝鮮や中国に見せつけるための協定です。でも今や、専門家の間では「日米韓」どころか「米韓」の協力だって存在するのか怪しい、との見方が一般的です。
プロの世界では、日韓GSOMIAがなくなったことをもってして「米韓関係が急速に悪化する」と見る人はあまりいません。「もう、悪化しているから」です。
普通の日本人は「日米韓」や「米韓」の安保体制がいまだに機能している、と思い込んでいる。だからGSOMIA破棄を見て「日本や米国の安保体制が揺れる」と大騒ぎになっているのです。
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