最終戦前日「ヌード写真公開」世界ナンバー1「ケプカ」の揺るぎない「信念」 風の向こう側(53)
米ジョージア州アトランタのイーストレイクGCで開催された米ツアーのプレーオフ最終戦「ツアー選手権」(8月22~25日)の開幕前日のことだった。
世界ナンバー1プレーヤーである米国のブルックス・ケプカ(29)がインスタグラムに自身のヌード写真を公開し、米ゴルフ界が騒然となった。
ゴルフ界のスター選手のヌード写真と言えば、2017年にタイガー・ウッズ(43)のヌード写真がSNS上に漏れ出し、ウッズ側が訴訟を起こした出来事が記憶に新しい。
だが、ウッズのそれは、プロスキーヤーで元恋人だったリンゼイ・ボンのスマホから盗み出されたもので、ウッズにとっては絶対に公の目に触れさせたくない門外不出のはずのヌード写真だった。
一方、今回は、ケプカ本人が望んで撮影に応じ、自らSNS上にアップして世界に披露したものだった。
その直後から、ケプカの元には、あれやこれやの批判が殺到した。それでもケプカは怯むことなく、堂々と反論。そして、翌日からの最終戦で堂々のプレーを披露し、単独首位で最終ラウンドを迎え、自身初のツアー選手権優勝と年間王者のタイトル獲得に迫った。
しかし、ロストボールによるダブルボギーを喫した7番以降、ケプカのゴルフは珍しく揺れ始め、ローリー・マキロイ(30)に逆転勝利を許して3位タイに甘んじた。
その展開と結果は、もちろん残念ではあったが、ケプカは「毎日好調なわけではない。今日はローリーを倒せる気がしなかった」と苦笑しながら振り返り、さらにこう続けた。
「今日は思った通りのプレーができなかったけど、今季はとてもとても安定した成績が得られ、満足している。今日は『僕の日』ではなかったけど、それでもやっぱり僕は戦うことが大好き。来季が楽しみでたまらない」
今季だけでもメジャー(全米プロゴルフ選手権)1勝と初の世界選手権(WGCフェデックス・セントジュード・インビテーショナル)タイトルを含め、年間3勝。そんなケプカの圧倒的な強さの秘密は、彼の思考回路の中にありそうである。
誘惑に負けず初志貫徹
ケプカがインスタグラムにアップしたヌード写真は、米スポーツ専門チャンネル『ESPN』が発行しているスポーツ雑誌『ESPN The Magazine』の年に1度の特別編『The Body Issue』用に撮影された中の一部だった。
米国にはもう1つ、『スポーツ・イラストレイテッド』というスポーツ雑誌があり、その特別編として年に1度、『Swimsuite Issue』が発行されているが、それに対抗する目的でESPNが2009年に創刊したのが『The Body Issue』だ。
創刊号の表紙を飾ったのは、当時のテニス界の女王、セリーナ・ウィリアムズをはじめとするトップ・アスリート6名のヌードやセミヌードだった。中面では、さまざまなスポーツ・フィールドをリードする人気アスリート、総勢50名以上が肉体美を披露した。
2010年号には、地面に這いつくばってグリーンを読む不思議なポーズで「スパイダーマン」の異名もあるカミロ・ビジェガス(37)がゴルファーとして初登場。2013年にはゲーリー・プレーヤー(83)、2015年にはグレッグ・ノーマン(64)というレジェンド・プレーヤーも登場。ケプカは男子ゴルファーとして4人目の登場となった。
フロリダで大掛かりな撮影が行われたのは今年3月。ケプカは文字通り、一糸まとわぬ姿でクラブを握り、コース上でポーズを取ったり、実際にショットをしたりしたという。
「30~40人ぐらいの撮影クルーの目の前でバスローブを脱ぐのは変な感じだった」
そう明かしたケプカに対して向けられた批判は、主として2種類の内容だった。1つは「子供たちの憧れであるはずのトッププレーヤーがヌード写真を公開するなんて」という倫理面からの批判。もう1つは「プロゴルファーがヌード撮影という副業のために激しい減量を行い、そのせいで飛距離を失うなど、もってのほか」という批判だった。
だが、ケプカは「ヌード撮影を否定する人の多くは、ヌードを披露できるような肉体を擁していないものだ」と反論し、批判は嫉妬の裏返しであることを逆に指摘した。
そして、「減量」に対しても実にロジカルに反論してみせた。
昨秋、ESPNからヌード撮影を依頼されて以来、ケプカは212ポンド(約96キロ)あった体重を5カ月で190ポンド(約86キロ)まで絞り、そして今春、ジムで鍛え上げたナイスボディをカメラの前で披露した。
「(減量していた間は)何カ月も撮影を楽しみにしていた。このヌード写真は僕のハードワークの結晶であり、何ら恥じることはない。しばらくの間、僕はこの写真を見て楽しむし、人々にも楽しんでもらいたい」
ヌード写真が「ハードワークの結晶だ」というケプカの主張は、少しだけ言葉を補えば、強い意志を貫き通し、過酷なダイエットやトレーニングをやり切ったという「達成感」「努力の賜物」、さらには、そこから得られた「自信」を意味していた。
減量に挑み始めたころは「僕のゴルフは決して好調ではなかった」と振り返ったケプカは、練習やトレーニングを怠らないよう自分自身を戒め、叱咤激励するための「何か」として、ヌード撮影の依頼を受け入れ、逆利用した。
ケプカが撮影のために減量に励んでいると知ったウッズは、しばしばケプカに接近しては「これ、食べなよ!」とクッキーやスナックをわざと差し出してきたそうだ。
しかし、ケプカはどんな誘惑にも負けず、見事に初志貫徹。撮影までに22ポンドの減量に成功し、自信満々でその肉体をさらけ出した。
やはりESPNからヌード撮影を依頼されていたマキロイは、自身は撮影を拒否したが、ケプカの挑戦と努力を賞賛した。
「試合で勝つためには絶大なる自信が求められる。ブルックスの自信を増大させたという意味で、ヌード撮影は彼にとって良かったのだと思う」
「我のふり見て我がふり直せ」
今回のヌード撮影の一件が物語るように、ケプカは「外観」を常に重要視している。2018年に左手首を痛めて戦線離脱していた際、トレーニングにもドクター・ストップがかかり、「どんどん太っていく自分の顔や体を鏡で見るのが一番辛かった」と、彼は後に明かしていた。
そして、左手首の回復後、鈍った肉体をシェイプアップすることが彼のスピード復帰につながり、すぐさま「全米オープン」、「全米プロ」制覇を成し遂げた見事なカムバックぶりは、ご存じの通りである。
自分が周囲から「どう見えるか」「どう見られるか」をケプカが強く意識するようになったのは、大学時代のある経験がきっかけになった。
「一時期、大学のゴルフ部で僕は問題視されていたらしいけど、僕はそれに気づいていなかった。あるときチームメイトが、試合で僕の18ホールのプレーを最初から最後まですべて撮影した。それを見せられた僕は、クラブを投げたり、地面を蹴ったり、うなだれて歩いたりしていた自分の醜い姿にショックを受け、プレー態度をあらためなければいけないことを強く認識させられた」
「百聞は一見にしかず」、そして「人ならぬ、我のふり見て我がふり直せ」。それがケプカにとっての最善の道になったのだそうだ。
世界のゴルフ界の長年の懸案であるスロープレー問題は、昨今もしばしば騒動が起き、ケプカもスロープレーヤーのブライソン・デシャンボー(25)を批判したり、直接対話するなどして問題解決に力を注いできた。
その結果、米ツアーも欧州ツアーもそれぞれに声明を出し、とりわけ欧州ツアーが考案して発表した「4つの新システム」をケプカは「素晴らしい」と評価している(2019年8月16日『批判の嵐でようやく重い腰上げた「米PGAツアー」スロープレー撲滅「秘策の中身」』)。
だが、ツアー側の工夫や努力や決めごとだけでは不足であり、スロープレーをなくすためには、大学時代の自分がそうであったように、ゴルファー全員が自分のプレー姿を動画に撮って眺めることが最善の道だとケプカは考えている。
「スロープレーをなくすためには、まず自分のプレーがスローであることを知ることがファースト・ステップ。動画を撮って見てみるべし!」
プロ意識の高さ
今年の「全米オープン」開催前、「全米ゴルフ協会」(USGA)のコース設定に対する批判の声が選手たちの間で高まったとき、ケプカだけはクールだった。
「フェアウェイとグリーンを捉え、やるべきことをやっていれば、何も問題はない」
そんなふうに、ケプカの思考回路は、きわめてシンプルだ。太いまっすぐな一本道が幹線道路のように突き抜け、溢れ出す自信が土台となってその道を支えている。そして、その道をあらゆる角度から写し出すミラーやカメラが配備され、「見え方」「見られ方」を常にケプカにフィードバックしている。
それゆえ、今回の「ツアー選手権」ではヌード写真公開で騒然となったにもかかわらず、ケプカの「道」は微動たりともしなかった。
「今、僕の調子は100%ではないが、それに近い状態にある。バミューダ芝で育った僕は、このコースが好きだ。唯一、ちょっぴり気になるのは、顔の周りを飛ぶ小さなハエだけ。それ以外に僕を煩わせるものは何1つない」
その自信が、そのままパフォーマンスに反映されたからこそ、ケプカは「渦中の人」でありながらも3日間リードを守り、勝利に迫ることができたのだろう。
ケプカの強さにあやかりたければ、まず自分自身を見つめ直し、「人々に披露できる自分」を作り出すべし。
よくよく考えてみれば、それは「魅せる稼業」であるプロゴルファーに求められる根本であり、世界ナンバー1のケプカは、世界で最も「プロとしての基本」に忠実であるということ。
ヌード写真はケプカのプロ意識の高さの象徴――ケプカの思考回路を辿ってみたら、そんな結論に辿り着いた。