あおり殴打事件「ガラケー女」の罪 知っておくべき犯人蔵匿・隠避で逮捕される基準

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 あおり運転の上、男性を殴って怪我をさせたとして逮捕された会社役員の宮崎文夫容疑者(43)。その交際相手とされる喜本奈津子容疑者(51)が犯人隠避などの疑いで逮捕された。

 一連の報道によると、喜本容疑者は、
・あおり運転をした車に同乗していた
・宮崎容疑者が男性を殴る様子を撮影していた
・宮崎容疑者を自宅に匿い、食事を提供した
などの関わりをもっていたことが判明している。

 彼女自身はあおり運転をしたわけでも、暴力をふるったわけでもないが、容疑者となった恋人を自宅に匿い、食事を与えたことで罪に問われているのだ。

 喜本容疑者の場合、暴力行為を撮影するなど宮崎容疑者に同調していた節もあり、「恋人を匿ったために自らも犯罪者になってしまった」などという美談にはならないだろう。
 しかし、友人や恋人が警察に追われていたら、つい匿いたくなってしまうのが人情かもしれない。ましてや「自分は悪くない」「助けてくれ」などと頼られたら、なおさらだ。

 一般的には、たまたまあおり運転の車に乗り合わせ、その後、断り切れずに匿ったために自身も犯罪者に陥ってしまうこともありうる。

 自分自身が犯罪者にならないためにも、喜本容疑者のどの行動が犯罪に当たるのか、匿っても許される場合があるのか、改めて確認しておこう。そこで、刑事事件に詳しい霞ヶ関総合法律事務所の古橋将弁護士に話を聞いた。

「犯人蔵匿・隠避」とはどのような罪か?

 刑法第103条には、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」とある。

 この「蔵匿(ぞうとく)」「隠避(いんぴ)」とは、どのような行為をさすのか。

「『蔵匿』とは、犯人が警察官などによる発見・逮捕を免れるための場所を与え、かくまうことをいいます。隠れ場所として自宅を提供した場合、これにあたります。『隠避』とは、蔵匿以外の方法で、発見・逮捕を免れさせる一切の行為をさし、例えば、逃走資金の援助、身代わりの自首などがこれにあたります。報道によれば、喜本容疑者は宮崎容疑者を自宅にかくまい、食事を提供していたというので、『蔵匿』『隠避』どちらも行っていたことになります」(古橋弁護士)

 宮崎容疑者の逮捕容疑、傷害罪(刑法204条)は「罰金以上の刑に当たる罪」にあてはまる。ただし、彼は「自分は危険な運転はしておらず、相手の運転に危険を感じた」「相手にからまれると思い、強く出るために自分から車を降りて行った」などと供述している。
 これを喜本容疑者が信じ、「自分の交際相手は犯罪者ではない、えん罪を避けるために匿った」と思っていた場合、「犯人」を隠していたことにならないのではないだろうか。

 この点について古橋弁護士は、

「犯罪が成立するには『罪を犯す意思』が必要です。本罪でいえば、喜本容疑者が、宮崎容疑者を『罪を犯した者』であり、その者を蔵匿、隠避させていることの認識が必要です。『罪を犯した者』には容疑者として追われている者も含まれますから、この事件が報道され、警察が傷害罪の容疑者として捜査を開始したことを喜本容疑者が知っていれば、喜本容疑者が宮崎容疑者は悪くないと思っていても犯人蔵匿・隠避の故意は成立します」

 つまり、宮崎容疑者が「俺は悪くない」と言い張り、喜本容疑者がそれを信じていたとしても、指名手配されていることを知っていた時点でアウトのようだ。

 では、匿っている相手が指名手配されていることを知らなかった場合、犯人蔵匿・隠避の罪に問われないことはあるのか。

「仮に、宮崎容疑者が傷害の罪に当たる行為をしたことも、傷害の容疑者として追われていることも知らなければ故意がなく、罰せられないことになります。しかし、本件の映像を見る限り、喜本容疑者の目の前で暴行が行われているので、傷害の罪に当たる行為をしたという認識がないとは言えなさそうです。したがって、仮に指名手配されていることを知らなくても、犯人蔵匿・隠避に問われないことはないでしょう」(古橋弁護士)

 目の前で宮崎容疑者の暴行を見ていた喜本容疑者に逃げ道はなさそうだ。
 ところで、可能性は極めて低いが、今後、宮崎容疑者が無罪になった場合、彼を匿った喜本容疑者も自動的に無罪になるのだろうか。

「捜査が開始された後は、容疑者が真犯人でなくても、『罪を犯した者』として扱うのが判例です。つまり、実際には犯人でなかったとしても、捜査開始後に容疑者として追われている人を蔵匿・隠避すれば本罪が成立します。結果的に宮崎容疑者が無罪となったとしても、喜本容疑者の罪の成立には影響しません」(古橋弁護士)

 相手が無罪になっても、「容疑者を匿った事実」が消えるわけではない。意外に思えるが、たとえ真犯人でなくとも、犯罪の嫌疑に基づいて捜査・訴追されている者を匿うと、警察などの捜査を妨害することになるので、犯人蔵匿・隠避の罪が成立することに変わりはないのだ。

あおり運転の同乗者が気をつけなければならないこと

 ここで、万が一、あおり運転の同乗者となってしまった場合のことを考えてみよう。

 あおり運転とは、車間距離を詰める、幅寄せ、クラクションでの威嚇などの危険行為をさす。これらはもともと道路交通法で禁止され、「車間距離保持義務違反」など罰金以上の刑が設けられているものもある。さらに、「暴行罪」や「危険運転致死傷罪」「殺人罪」に該当する場合もありうる。

 そんな“犯罪行為”である、あおり運転の車に同乗しながら、運転手を警察に出頭させなかった場合、黙っていたことは罪になるのだろうか。

「犯罪や犯人・逃走者の存在を知っていても、単なる不作為は、検挙・告発の義務を負う警察官などでない限り、『隠避』とはみなされません。ただし、警察官に話を聞かれたときなどに、積極的に嘘を言ってしまうと『隠避』となる可能性があります」(古橋弁護士)

 不作為、つまり「何もしない」ことは犯人隠避にあたらず、積極的に隠れ場所を与えたり、逃走を助けたりしなければ、罪に問われることはなさそうだ。

 喜本容疑者が匿ったのは「交際相手」だったが、配偶者や子どもなどの「家族」だった場合、犯罪者として警察に突き出すのはさらに抵抗があるだろう。家族を匿った場合も同様に犯人蔵匿・隠避の罪に問われてしまうのだろうか。

「犯人蔵匿罪、犯人隠避罪には、親族による場合の特例が法定されています。すなわち、犯人の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑が免除されます。『親族』の範囲は民法により定まっており、日本国籍を有するものであれば、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族です。犯人が親族の場合には、適法な行為に出られないという親族間の人情を考慮し、犯罪自体は成立するものの、裁量的に刑の免除事由としたものです」(古橋弁護士)

 家族が犯人として追われることになった時は、さすがに匿っても仕方ないとされているようだ。とはいえ、あおり運転は危険な犯罪行為。ドライブレコーダーが普及した昨今では、その様子が撮影、公開され社会的に大きなダメージを負うことも多い。結局は、あおり運転を「しない」「させない」ことが重要だ。

週刊新潮WEB取材班

2019年8月26日掲載

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