今年も終わった日テレ「24時間テレビ」、マンネリ化を脱するための“ギャラの話”

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日本の芸能界になかったノーギャラ文化

 『24時間テレビ』が始まったのは1978年。あのころと今では時代はすっかり変わった。チャリティー活動をする芸能人は数え切れない。阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)を経て、芸能人も日本人全体もチャリティーやボランティアに対する意識が様変わりしたのだ。その分、ギャラが存在しバラエティー色も濃い『24時間テレビ』が色褪せてしまったように映る。

 『24時間テレビ』の企画者は、伝説の深夜番組『11PM』(1965~90年)の硬派企画を支えていた日テレのディレクター・都築忠彦である。米国のチャリティー・イベント『レイバー・デイ・テレソン』を取材し、感動したからだった。

 リアルタイムで『11PM』を観ていなかった人の中には誤解もあるようだが、この番組はお色気やレジャー情報だけが売り物だったわけではない。沖縄返還当日に「棄てられた沖縄の証言 ~返還後の沖縄の防衛を考える」(1972年)といった特集を放送するなど社会派の一面もあった。それを担っていたのが都築である。

 一方、『レイバー・デイ・テレソン』は、名優のジェリー・ルイスが企画し、1966年に始まって、ルイスが高齢化した2014年まで続いた。レイバー・デイ(労働者の日)に合わせ、米国を代表するスターや有名陣が一堂に会し、20時間以上にわたって難病患者の治療費や社会参加支援費の寄附を呼び掛けた。募金額の多寡が評価を決めるものではないが、約65億円が集まったこともある。

 コメディ映画『底抜けシリーズ』で知られ、ヴェネチア国際映画祭功労金獅子賞など数々の栄誉を受けたルイスは、米国人が誇りとするスターの1人だった。単に俳優として優れていたからだけではない。若いころからチャリティー活動に熱心だったからだ。欧米では、名声や冨を社会に還元しないスターは尊敬を集めない。

 もちろんルイスはノーギャラ。ほかの出演者もそう。だが、この部分を都築は取り入れられなかった。そうしたかったのだろうが、日本の芸能界にはチャリティーやボランティアはノーギャラという文化がなかった。

 だが、今は違う。ロッカーも演歌歌手も肩を並べ、チャリティー・コンサートを開く時代である。『24時間テレビ』も変身するチャンスが到来しているのだ。

 ちなみに都築の製作した第1回の『24時間テレビ』の視聴率は15.6%(ビデオリサーチ調べ)で、集まった寄付金は約11億9000万円。大成功だった。当時の社長・小林與三次は放送中に感極まり、番組終了前に2回目も行うことを表明。以来、42回続いた。

 硬派な都築の関わっていた初期の『24時間テレビ』はバラエティー色が薄かった。それが徐々に濃くなるのはフジテレビの視聴率争いが激化した1990年代だ。92年からはマラソンが始まり、その役を1年目と2年目は間寛平(70)が担った。

 当初、マラソンはマンネリ対策のために取り入れられたが、その効力はもはや薄らいだと言わざるを得ない。マンネリ打開策がマンネリ化した。今回からランナーが複数になったが、1人で走ろうが4人で走ろうが、目新しさはない。

 そんなこともあり、「もう終了してしまえ」といった意見も目にする。けれど、それは乱暴だろう。この番組でチャリティーやボランティアという言葉に初めて触れた子供は数多い。寄付金が福祉や環境保護、災害復興に役立てられ、感謝している人が多いのもまた事実だ。

『24時間テレビ』のアンチテーゼとして1987年生まれ、お笑い芸人たちが「募金箱なんて持ってくるなよ」とはしゃいでいだフジテレビの『FNS27時間テレビ』は近年、精彩を欠く。視聴率は1桁台に低迷。テーマを歴史などにして教養色を強めても浮上しない。ここが社会的意義のある『24時間テレビ』とまるでない『FNS27時間テレビ』の一番の違いだろう。

 半面、『24時間テレビ』も現行のままで続けると、やがては尾羽打ち枯らし、フジの二の舞になりかねない。ギャラを出し続け、バラエティー色が濃くなると、番組の精神であるチャリティー精神が見えにくくなる。

 2017年夏に米国のテキサス州とフロリダ州を襲ったハリケーンの被災者支援のため放送されたチャリティー番組『Hand in Hand: A Benefit for Hurricane Relief』は米国の4大テレビ局であるABC、CBS、FOX、NBCの全局で放送された。国難には一丸となって立ち向かうのが米国らしさなのだろう。

 出演したのは、スティービー・ワンダーらアーチストのみならず、ジュリア・ロバーツやレオナルド・ディカプリオら役者も。全員が連帯の必要性を説き、懸命に寄附を呼び掛けた。その総額で約50億円にも達したという。

 都築が『レイバー・デイ・テレソン』を観て感動したように、海外のディレクターが真似たくなる番組にすべきではないか。既に日本にもチャリティー、ボランティアの意識は浸透しているのだから。(文中敬称略)

鈴木文彦/ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年8月26日掲載

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