星稜「奥川」と大船渡「佐々木」…4つの角度から徹底比較、ホントに凄いのはどっちだ?

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 夏の甲子園、選手として最も話題となったのはやはり奥川恭伸(星稜)だろう。決勝戦こそ5失点で負け投手となったものの、5試合41回1/3を投げて被安打21、7四死球、51奪三振、6失点(自責点5)で防御率1.09と大会ナンバーワン投手の評判に違わぬピッチングを見せた。

 特に見事だったのが3回戦の智弁和歌山戦だ。今大会でも屈指の強力打線を相手に延長14回を被安打3、3四死球、23奪三振で1失点(自責点0)完投勝利をおさめたのだ。しかも延長13回からは無死一・二塁から始まるタイブレークでの投球であり、改めて奥川の実力を見せつける結果となった。今後も甲子園の名勝負として語り継がれていく試合となったことは間違いないだろう。

 一方、地方大会の時点で最も話題をさらったのは佐々木朗希(大船渡)だ。岩手大会の4回戦では盛岡四を相手に延長12回で21奪三振。8回には公式戦では大谷翔平以来となる160キロをマークし、最後は自分のツーランホームランで試合を決めるという離れ業をやってのけた。決勝戦で出場を回避したことで論争が巻き起こったのも、佐々木の存在の大きさを物語っている。甲子園に一度も出場せずに、ここまで怪物と呼ばれる選手は高校野球史上初と言ってよいだろう。

 10月に行われるドラフト会議もこの二人が中心となることは間違いない。そこで今回は実際どちらの何が上回っているのか、あらゆる面から比較してみたい。

 まず投手の基準で分かりやすいのはストレートのスピードだが、この点に関してはやはり佐々木が上回っている。4月の高校日本代表合宿では中日のスピードガンが163キロを計測し、先述したようにこの夏は公式戦でも160キロをマークした。最大瞬間風速ではなく、アベレージでも150キロを超えており、高校野球レベルではなく現在の日本球界全体で見ても1,2を争うレベルと言えるだろう。一方の奥川も石川大会では最速158キロ、甲子園でもコンスタントに150キロを超えており、春に比べてもスピードアップしてきたのは立派という他ない。

 次にコントロールだが、こちらは奥川に分があると言えるだろう。与える四死球が少ないのはもちろんだが、全体の球数も少なく、夏の甲子園でも1回戦の旭川大戦ではわずか94球で完封勝利をおさめている。右打者、左打者問わず内角の厳しいコースに速いボールを投げ込み、変化球もストライクゾーンとボールゾーンにきっちり投げ分ける精度の高さを備えている。一方の佐々木も大型の本格派投手ということでコントロールに難があるようなイメージを持っている人もいるかもしれないが、決して制球力が低いということはない。むしろ高校生のレベルではコントロールが良いと言い切れるだけの投手である。ただ奥川と比べると基本的には外角が中心となり、変化球も抜けるボール、引っかかるボールが目立つというのは現状である。

 次に変化球だが、こちらは甲乙つけがたいという印象だ。佐々木、奥川とも中心となるのはスライダー。佐々木の方が奥川のボールに比べて少し変化が大きいように見えるが、ともに打者の手元で鋭く変化するボールで、決め球として使えるレベルのボールである。チェンジアップとフォークについても両者とも高レベルのボールで、あまり多くはないがカーブを操るという点も共通点だ。前述したように精度では奥川が上回るが、ボール自体の質という点では差がないと言えるだろう。

 最後に投球術だが、こちらは奥川が上回っている。少ない球数で試合を作り、勝負所で狙って三振を奪えるというのは得難い長所だ。夏の甲子園でも対戦した相手から「ピンチの時ほど良いボールが来る」という声が出てきており、春までにはなかった勝負強さが出てきたことも大きな進歩と言えるだろう。

 以上のことを考えると、現時点ですぐ試合に使えるという点で言うと奥川に軍配が上がることになりそうだ。しかし抽象的な表現になるが、佐々木には他の誰にもないスケールや将来性を備えており、その点が最大の魅力と言える。それをよく表しているのがピッチングフォームだ。長い手足を無駄なく、それでいて大きく使い、全身を躍動させながら投げ込む姿は見るもの全てを魅了する。イチローが佐々木について聞かれた時に「囲碁のファンが見ても凄いのが分かるレベル」と話したと伝えられたが、まさにそういうスケールが佐々木にはあるのだ。

 ごくごく簡単に言い切ってしまうと将来性なら佐々木、即戦力なら奥川となるが、ただ佐々木も完成度は決して低くなく、奥川も過去1年の成長を見てもまだまだ伸びる余地はあると言える。ドラフト会議でもどちらが凄いということではなく、編成トップの好みやチームの方針といった点が判断基準となりそうだ。

 高校日本代表にはそんな二人が揃って選出された。8月26日の大学日本代表との壮行試合、そしてその後のU18ワールドカップでは果たしてどんなピッチングを見せてくれるのか。ぜひ注目してもらいたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年8月23日掲載

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