米政府機関から締め出された中国の“監視カメラメーカー” 背後にウイグル弾圧問題
極端な強圧策の背景
そもそもウイグル問題とは何か。トルコ系イスラム教徒であるウイグル族が人口の約半数を占める新疆ウイグル自治区は、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンといった旧ソ連諸国に加えてモンゴル、アフガニスタン、パキスタン、インドという8か国と隣接しており、地政学的に重要な場所に位置している。
習近平政権の下でウイグル人を巡る状況が悪化している背景の一つには、陳全国書記の存在が挙げられる。中国においては政府の職よりも共産党の職の方が実権を有しており、新疆ウイグル自治区においても同様の状況だ。自治区政府のトップである主席にはウイグル族が歴代あてられているが、党組織のトップである党委員会書記には漢族が就いている。ウイグル側には実権を決して渡さないという共産党の意思表示だ。
現在の党委書記である陳は、2016年8月に新疆に転任するまではチベットで党委書記を務め、再教育に名を借りた弾圧を大々的に展開。チベットでの手口を新疆にも持ち込んでウイグル族への弾圧をあからさまに強めているのだ。その“功績”を買われてか、2017年10月の第19回中国共産党大会を受けて、党中央の政治局委員に昇格を果たした。少数民族をいかに抑圧したかが昇進のポイントになったのだとすれば、俄かには信じ難い話だ。米国議会も陳をキーパーソンとみており、先に挙げたルビオ上院議員らからトランプ政権への書簡では、陳に対する制裁も求められている。
構造的な要因として考えられるのが、習近平政権が重要戦略と位置付ける一帯一路だ。陳は、李克強首相が河南省で省長そして党委書記を務めていた時の直接の部下であったこともあり、陳の施策には党中央の意向がダイレクトに反映されているとみてよいだろう。
陸路で中国と欧州を結ぶ主要ルートのハブにあたるのが新疆だ。また新疆西部の最大都市タシュクルガンからパキスタンのグワダル港までのインフラ整備計画を中国パキスタン経済回廊(CPEC)と銘打つのは、マラッカ海峡を経由せずにインド洋にアクセスしようという思惑からだ。このように一帯一路は新疆を抜きにして語ることはできず、極端な強圧策の背景には、新疆の安定を何とか確保して習の看板政策である一帯一路を前進させたいという狙いがあるものと思われる。
だがウイグルに対する米国や国際社会の関心は、これまで必ずしも高いとはいえない状況が続いていた。同じく中国の民族問題としては、チベットに対する関心の方が遥かに高かったといえるだろう。チベットには世界的な影響力を有するダライ・ラマというアイコンがいることも大きな違いだ。
加えて見逃すことができないのが、ウイグル問題は米中関係全体の中では、ある意味でのバーターの材料として使われていたという点だ。特に顕著だったのが、今世紀の初頭、すなわち9.11以降にテロとの戦いがアメリカの軍事外交において極めて大きなウェイトを占めていた頃だろう。中国がテロとの戦いに協力的な態度を示す代わりに、米国は新疆でのテロ取締を名目としたウイグル抑圧に対して大々的な批判はしないという暗黙の了解が成り立っていた時期があったといえよう。これまでウイグル問題についての声が米国においてなかなか高まりを見せなかった原因は、米中関係の中でのこうした貸し借りがあったと思われる。
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