未来予測について(古市憲寿)

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 占いは容易(たやす)く未来を語る。毎朝のテレビ番組の占いコーナーは今日の運勢を示し、雑誌の占い特集は半年や一年の運気を予想し、街角の占い師に至っては誰かの一生分の人生を指し示すことさえある。

 占い師たちは誕生日や星座、手相などを元にして人々の未来を語ろうとしてきた。信じるか信じないかは人それぞれ。「『日本人の意識』調査」によれば、占いを信じる人の割合は「神」や「仏」などに比べれば低い。それでもテレビや雑誌で人気のコーナーなのは一定の需要があるからだろう。

 少なくない経営者や政治家、芸能人も占いに頼っている。不確定な未来を相手に仕事をしていかなくてはならない彼らが、占いに頼る心情は理解できる。

 しかし未来を語るのは、占い師だけの専売特許ではない。この世で、最も正確な未来予測をしているのは物理学者だろう。たとえば高さ100メートルのビルの屋上から鉛の球体を自由落下させた場合、何秒後に地上に到達するか。空気抵抗を考えるかどうかで答えは変わるが、公式に当てはめれば簡単に「未来」を知ることができる。

 物理学者ほど未来予想が得意な人々もいない。彼らははるか未来の太陽系の惑星の配列でさえも言い当てられる(ただし「ラプラスの悪魔」の議論で有名なように、いくら研究が進んでも宇宙中すべての未来を把握することはできない)。

 物理学以外の様々な学問にも、しばしば未来予測が期待されてきた。たとえば経済学者にはこれからの景気を予測して欲しいし、政治学者には政局の今後を占って欲しい。

 だが数十億の人間が織りなす社会の未来を正確に予測するのは非常に難しい。鉛の自由落下と違って、物理法則を適用すれば済む話ではないからだ。実際、多くの未来予測は外れてきた。もし全ての予想が当たっていれば、日本はすでに数十回、資本主義も数百回は崩壊しているはずだ。

 社会科学の中で最も未来予測が得意なのは人口学である。なぜなら人口は急に増えたり減ったりしないから。国単位で見た時に、現役世代が多く高齢者が少ない時期ほど経済成長が起こりやすいことがわかっているから、未来を占う際には、人口は非常に重要だ。

 僕たちは日常の中でも未来を予測している。たとえば朝の駅前。制服を着た子どもたちがある方向に向かっている姿を目撃したとしよう。それを通学中の光景だと理解し、彼らが学校に向かっていると想像するのは容易い。しかし「朝、生徒は制服を着て学校へ通学する」という知識がない人には、同じ様子を見ても同じ想像はできないだろう。つまり未来予測のある程度は知識に依存しているのだ。

 もし本当に未来に興味があるならば、テレビの星座占いに一喜一憂するよりも、より多くの知識を蓄えたほうがいい。そうは言っても、手軽に未来を示唆してくれる占いは魅力的だ。このエッセイを読んでくれたあなたには今週、幸せなことばかり起こるでしょう(適当)。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2019年8月15・22日号掲載

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