「マツキヨ」「ココカラ」が統合協議の裏 店舗数増でもドラッグストアを待ち受ける危機

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 突然、近所にドラッグストアがオープンした。しかも売るのは薬だけでなく、日用品や食品も充実している――。こんな経験をお持ちの方は、多いのではないだろうか。近年、拡大を続けるドラッグストア業界。このたび報じられた有名2社の経営統合も、そんな勢いの象徴的な動きかと思いきや、さにあらず。実は忍び寄る“危機”に備えた、生き残り戦略なのだという。

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 ドラッグストアの成長具合は、数字にも見て取れる。『日本食糧新聞』は、5月3日付紙面で〈総店舗数2万店突破〉と題する記事を掲載。日本チェーンドラッグストア協会の2018年度版「日本のドラッグストア実態調査」に基づき、最近の動向を伝えている。

 記事によれば〈調査企業数409社の総店舗数は2万0228店、純増数は694店だった。この10年で企業数は7割に集約される一方、店舗数は3割増えている〉。そして〈1店舗当たりの売上高は2・5%増の3億5962万円と過去最高を更新した〉。巨大なドラッグストア・チェーンが、小さなローカル店を淘汰、あるいは吸収しながら増殖を続けている……こうした構図が見て取れる。

 そして8月14日、「ココカラファイン(以下、ココカラ)」が「マツモトキヨシホールディングス(以下、マツキヨ)」と経営統合の協議に入ると発表したのはご存じのとおり。業界紙記者の解説によれば、

「マツキヨは業界5位、ココカラは7位の規模を誇る会社です。統合が実現すれば、一気にトップに躍り出ます。しかも現状1位のツルハホールディングスの店舗数を、1000店舗も上回ることになる。売上高も1兆円規模になるとされ、業界の勢力図が一気に塗り替わることになりますね」

 ココカラは2008年、「セガメディクス」と「セイジョー」の持ち株会社として設立された。現在に至るまでの過程はなかなか複雑で、コア事業となるドラッグストア・調剤部門は子会社の「ココカラファイン ヘルスケア」が担い、こちらは13年に上記の2社と「ジップドラッグ」など5社を合併する形で誕生した。このほかにも、山口県と広島県で展開するドラッグストア「岩崎宏健堂」、東京都の調剤薬局「小石川薬局」もグループ傘下にある。こうしたところへ、さてマツキヨはどうなるのか……という状況なわけだ。

「業界6位のスギホールディングスもココカラとの統合を探っていましたが、最終的にはマツキヨに軍配が上がりましたね。調剤に強いココカラは、同じく調剤系のスギよりも、化粧品に強く、圧倒的に全国的に知名度のあるマツキヨに魅力を感じたのでは」(先の業界紙記者)

 統合に向け、ココカラはマツキヨに独占交渉権を付与。期限は来年1月末だという。仮に統合した場合、ココカラのピンクの看板、マツキヨの黄色の看板、どちらに“染まる”のだろうか。流通アナリストの渡辺広明氏は、次のように分析する。

「商品を置いてもらうメーカー側としては、マツキヨで統一してほしいというのが本音でしょうね。というのも、メーカーの関係者に聞くと、ココカラは複数の会社によってできたその成り立ち上、会社が“多重行政”状態にあり、本社でのセントラルの商談やプロジェクトがなかなか進まないと聞きます。加えて、元々別ブランドだった個々の店舗の声が本社よりも大きく、やはりココカラブランドとしての統一した動きが困難な面もあるようです。ですから、ココカラを完全に“買って”、マツキヨとしてやっていくのがいいのでは。余談ですけれど、統合後に本社所在地がどうなるのかも気になるところ。ココカラは神奈川県の新横浜で、マツキヨは千葉県の新松戸。どちらも都内から商談に赴くには遠すぎる。メーカーにとっては、これを機に都心に移ってほしいところでしょう」

 両者がひとつになることで、消費者の健康に対して、より細かな対応が可能になるでしょう――マツキヨとココカラの統合に、こう一定の評価をする渡辺氏。と同時に、この動きの背景には今後、既得権益を失う危機感があるため、とも指摘する。

高い薬の粗利益

 先にドラッグストアの「調剤系」「化粧品系」という分類を紹介したが、ここに加わるのが「食品系」と呼ばれる店の存在だ。売上構成比のうち、食品の占める割合が大きいチェーンを指し、例えば岐阜県を中心に展開する「Genky DrugStores」は、売り上げの58・7%を食品が占める。このほか、九州の「コスモス薬品」は56・2%、栃木に本社を置く「カワチ薬品」は46・3%を食品の売上が占め、もはやスーパーマーケットに近いドラッグストアは少なくない(数字は『MD NEXT』18年10月25日掲載〈食品構成比率60%に近づくGenky。部門別売上高構成比に見るDgS企業の営業戦略〉より)。

 実際、こうした食品系ドラッグストアは、スーパーマーケットがない、あるいは撤退してしまった地域などに出店し、地元民の生活インフラとなっているという。時には、スーパーより安い価格で食品を販売もするが、

「なぜドラッグストアなのに食品を安く売れるのか。それは並行して売る医薬品の利益率が高いからです。通常、小売りの利益率は30%といわれていますが、医薬品は50%近くと、かなり儲かる。医薬品の販売で儲けを出して、その分、食品を安く売れるわけです。極端な話、食品の利益率を10%に設定しても、医薬品さえ売れば元は取れてしまいます。薬剤師のいるコンビニも増えてはいますが、それでも医薬品販売はドラッグストアの特権です。しかし、これが今後はどうなるか……」(前出・渡辺氏)

 14年の改正薬事法の施行によって、一般用医薬品、いわゆる市販薬はインターネットで販売することが可能になった。例えばAmazonは、17年から第一類医薬品の販売を開始。ドラッグストアでは薬剤師のいる時間帯にしか購入できない「ロキソニン」は、Amazonならば、手軽に購入可能となっている(薬剤師による使用確認チェックあり)。

「ネット解禁によって、ドラッグストアは優位性をひとつ失うことになりました。“そこに薬剤師がいなくても薬が買える”状況となったのです。こうした解禁の流れは今後も拡大していくことは間違いない。将来的には、ドラッグストア以外の実店舗、それこそコンビニでも、医薬品が買えるようになるはずです。もちろん服用にあたって注意が必要な薬は、今後も薬剤師さんの判断のもとで販売されるべきなのは言うまでもありません。しかし、消費者の利便性を考えれば、いわゆる大衆薬は24時間やっているコンビニで買えたほうがいい。店舗に薬剤師がいなくても、ネット同様、遠隔でやりとりしてしまえば役割は果たせるわけです。それにドラッグストアで売れるのは大衆薬です。つまり、医薬品の販売という優位性を、将来的にドラッグストアは失うわけです」(同・渡辺氏)

コンビニなれないドラッグストア

 先の話に照らせば、“医薬品を売る”ことで成り立っていた食品系のドラッグストアは、方針転換が求められることになる。もちろん調剤系や化粧品系にも打撃だ。こうした業界の未来に備え、今のうちにプレゼンスを高めておきたい――マツキヨとココカラの統合には、そんな狙いがあると渡辺氏は見る。

 だが、ひとつ疑問がある。コンビニが医薬品を売ることでドラッグストアの優位性を奪うならば、ドラッグストアも弁当などを売り、コンビニに立ち向かえばいいのでは……?

「それは難しいでしょうね。今回の統合話が成立し、“マツキヨココカラ”が業界1位の規模になっても、店舗数は3000店ほど。これはファミリーマートのおよそ5分の1、最大手のセブン-イレブンの7分の1の規模です。そもそものノウハウがない上にこれだけの差があるとなると、マーケティングも機能せず、結果、弁当(中食)のクオリティの差は埋められません。実際、すでにおにぎりやサンドイッチを販売しているドラッグストアがありますが、試したことありますか? 正直、あまり美味しくありません……」(同・渡辺氏)

 派手な合併話の裏にある危機。ドラッグストア業界への特効薬はあるのだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2019年8月20日掲載

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