「カサンドラ妻」が高確率で「DV被害者」であるという現実

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「カサンドラ症候群」(以下、カサンドラ)とは、発達障害の一種・自閉スペクトラム症=ASD(旧診断基準名の「アスペルガー症候群」〈以下アスペルガー〉を含む)の夫や妻、あるいはパートナーとのコミュニケーションが上手くいかないことによって発生する心身の不調です。特に夫婦関係で多く起こると言われていますが、最近ではASDの家族や職場・友人関係などを持つ人に幅広く起こり得ることが知られています。

 本連載「私ってカサンドラ!?」では、カサンドラに陥ったアラフォー女性ライターが、自らの体験や当事者や医療関係者等への取材を通して、知られざるカサンドラの実態と病理を解き明かします。前回に引き続き、カサンドラの臨床に携わる臨床心理士の滝口のぞみ先生への取材の様子をお届けします。

 バックナンバーはこちら https://www.dailyshincho.jp/spe/cassandra/

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パッと感情移入できるか、考えないとわからないか

 パートナーが自分を愛していたとしても、そこに情緒的な交流がなければ、寂しく感じ、傷付いてしまう。情緒的な交流がないということは花に水がないようなもので皆、枯れていってしまう。それこそがカサンドラの原因だという。

 カサンドラの原因は、「パートナーがアスペルガーだから」ではなく、パートナーとの間に「情緒的な交流がない」ことだったのだ。

 では一体、「情緒的な交流」とは何を指すのだろうか。

「情緒的な交流とは、直感的な共感があるかどうか。例えば泣いている人を見ると自然とウッと悲しくなったりしますよね。情緒的な交流とはこの他人の感情に同期するようなやりとりのこと」(臨床心理士・滝口のぞみ先生)

 ところが、一見、同期して感じられているように見えても実は思考しているケースもある。泣いている→悲しいに違いない、と自身の経験を参照して推測している場合だ。

 パッと感情移入できるか、考えないとわからないか。その違いは大きい。

 自身の経験を参照しながら人の気持ちを推し量るというプロセスを経た思考だと、自らが同じ体験をしても悲しくなかった場合、「自分は平気だから相手も平気なはず」となることがある。そこで相手に「平気」な気持ちを押し付けてしまうことがあるからだ。

 例えば、「自分が嫌だと思うことは他人にしないようにしましょう」というあれだ。たとえ相手に「嫌だ」と言われても、「自分は平気なんでやめません」となってしまうケースだ。

 悲しいという気持ちに同期できなければ、相手が説明した理由に納得できず受け入れられないこともあるだろう。また泣いている人に自分の基準で「平気」を押し付けるだけじゃなく「平気」じゃないことを責めたり、さらには攻撃するまでに言動がエスカレートすれば、モラハラやDVになりかねない。

「そうすると情緒的な交流ができないことで傷付く部分と、被害者として痛めつけられる部分が出てきて、カサンドラの問題はさらに複雑になっていきます」(滝口先生)

 そこで、私はずっと気になっていたことを聞いた。

「カサンドラというとコミックエッセイ『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』シリーズのアキラさんを連想する人が多いと思います。攻撃性がなく、穏やかで、けれど話は通じない。

 一方、私のようなケースはモラハラやDVが強く出ており、それはもう発達障害やカサンドラの問題ではないといわれることがあるのですが」

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