「天皇陛下」が36年前の英国留学で養った人生観 機密文書でひもとく
妙な焦燥感におそわれ
今上陛下は回顧録で英国の印象を「古いものを大切にしながら一方では新しいものを生み出す『力』の蓄えが感じられる」と述べている。オックスフォードの路上で、伝統のガウンを纏った学生とパンクロックの若者がすれ違ってもごく自然で、大学もラテン語の荘厳な儀式があるかと思えば、専攻の違う学生が自由に交流し合っていたという。
「新しいもの、古いものと一見矛盾するものを抱えながら、それを対立させることなく見事に融合させているイギリス社会の持つ柔軟性、面白味を肌で感じるのは私のみではあるまい」
これは新天皇が水上交通史ばかりでなく、決して頑迷固陋なだけの保守ではない英国流の合理主義を学んだ事を示している。そして回顧録は、カメラを抱えて、愛おしむように町を歩き回った思い出で終わっていた。
「どんな小さな通りにも、広場にも、私の2年間の思い出はぎっしりと詰まっているように思われた。再びオックスフォードを訪れる時は、今のように自由な一学生としてこの町を見て回ることはできないであろう。おそらく町そのものは今後も変わらないが、変わるのは自分の立場であろうなどと考えると、妙な焦燥感におそわれ、いっそこのまま時間が止まってくれたらなどと考えてしまう」
1985年の10月、浩宮は、ヒースロー空港からホール大佐や大使館員らの見送りを受けて飛行機に乗り込んだ。
「ロンドンの風景が遠ざかるのを見ながら、私の中で自分の人生にとって重要な一つの章が終わり、新たなページが開かれる思いがし、しばし心の中に大きな空白ができたような気がした。それとともに、内心熱いものがこみ上げて来る衝動も隠すことはできなかった。私は、ただ、じっと窓の外を見つめていた」
若き日の英国留学が、今後、陛下の行動をどう左右し、令和の歴史を変えていくのか、静かに見守りたい。
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