わずか25万円のために人生を捨てた……過酷なフランチャイズ事業が生んだ悲劇

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 昨年来、コンビニオーナーの過酷な労働条件が問題視されている。フランチャイズ制は労働基準法の適用外となるためだ。2003年9月に起こった運送会社への立て籠もり事件も、フランチャイズ事業を巡るトラブルが原因だった。ガソリン144リットルを持ち込み、未払いの報酬3カ月分を要求。わずか25万円のために自爆……。(駒村吉重 ノンフィクション・ライター)

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些細な要求と過激な犯行との激しい落差

 オフィスビルに籠城した別府昇は、妻も子もある52歳の宅配便運転手だった。ほんの数日前まで、契約関係にあった運送会社「軽急便」の名古屋支店に押し入り、ガソリンをまき散らして支店長らを人質にとったのである。

 残暑が残る平成15年の9月16日、連休明けの仕事が動き出した名古屋市東区の繁華街は、たちまち騒然となった。仕事が回ってこないから食っていけないと、仲間に漏らしていた彼が、捨て身の行動の末、会社に突きつけた要求は、

「7、8、9月分の運送委託料を払え」

 であった。総額でわずか25万円。そのために、男は人生を捨てた。
 
 3時間ほどのち、警官の説得に応じた別府は、支店長ひとりを残して7人の従業員を解放した。だが、解決の兆しが見えた矢先に、4階の現場窓にオレンジの火柱が走り、地響きのような爆発音が轟いた。膨れた窓ガラスが砕け散り、熱風が昼下がりの青空に黒煙を吹き上げた。
 
 別府と、41歳の支店長が即死。愛知県警機動捜査隊の「突入班」として待機していた、31歳の巡査長も煙にまかれて命を落とした。けが人は、33人に及んだ。
 
 全容が明らかになるにつれ、驚きの声が広がっていく。それは爆発の甚大な被害にではなく、男の些細な要求と、過激な犯行との激しい落差に向いていた。
 

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