「化石フェア」「フリマアプリ」で売買してはいけない絶対的理由 恐竜学者・小林快次
NHK子ども科学電話相談で大人気の“ダイナソー小林”こと北海道大学の小林快次教授。誰も調査したことのないフィールドへ足を運び、未知の恐竜化石を掘り出す学者だ。「むかわ竜」発掘の陣頭指揮をとったことでも知られる小林さんは、発掘地でよく化石を見つけることから、「ファルコン・アイ(ハヤブサの眼)」の異名も持つ。そんな小林さんの“恐竜まみれの日常”を夏休みスペシャルとして4回にわたりお届けする。第3回「化石売買をしてはいけない理由」。(以下、『恐竜まみれ―発掘現場は今日も命がけ―』(小林快次・著)より抜粋)
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売買には100%反対
化石の盗掘よりも深刻なのは、盗掘された化石が売買されている問題だ。この問題について、私のスタンスはずっと変わらない。化石の売買には100%反対。ここでいう化石には恐竜はもちろん、アンモナイト、三葉虫なども含む。個人で楽しむには構わないが、売買するとなると話が違ってくるのだ。
化石マーケットには、すごい化石が出ている。東京をはじめ地方の中核都市では毎月のように「フェア」や「ショー」という名のマーケットやイベントが開催されているのをご存じだろうか。なかにはとんでもない発見の化石も、商品として売られている。
この大きな化石マーケットを、何とかなくしたいというのが私の願いだ。いわゆる「薬物」とまったく一緒で、絶対ダメ。買えば確実にお金が回っていくので、売っても買ってもいけない。
「いやいや、そうじゃない。もう市場に出ているものを放っておけば個人の手に渡り、二度と日の目を見なくなってしまう。だから買うことは救済、レスキューになるのだ」
いかにも正論のようにこう言う人もいるが、私はまったくそう思わない。問題は、いま出ている化石どころではないからだ。
例えば、ティラノサウルスの歯。日本で買おうと思えば、イベントでも、ネットでも、いくらでも見つかる。値段もじつに様々だ。それらが元々、ひとつだけ地面に落ちており、それが運よく拾われたというならまだいいかもしれない。だが、そうではないケースが多い。もとは頭骨つき、あるいは全身化石だったのにバラされた可能性が高いのだ。
各国の監視がかなり厳しい今、それほど大きな化石は密輸しづらい。密輸ができても、とんでもない価格となれば買い手がつかなくなってしまう。一般的にハドロサウルス科(大型の植物食恐竜)の頭なら300万~500万円、全身なら1千万~2千万。ティラノサウルスの全身化石なら1億~2億にもなる。
ニコラス・ケイジが落札した化石が…
2015年、米国の俳優、ニコラス・ケイジが落札した化石が盗掘によるものと分かる事件が起きた。約3400万円で購入したティラノサウルスの頭骨は、ゴビ砂漠から不法に持ち出され、密輸されたものだったのだ。大きさは81センチ。事実が分かり、頭骨はモンゴル政府に返還されることになる。モンゴル政府はいま、盗掘されて各地へ散ってしまった化石を取り戻そうともしている。
だからこそ、歯や爪など、隠して運びやすいもの、そして売りやすいものばかりが流通している。そして一部は、一般の人にも手の届く値段になって売られているのだ。
だがこの裏側で、素晴らしい化石が犠牲になっているのを目の当たりにしてきた。モンゴルではいまも、捨てられた化石が山になっている。本来は立派な化石なのに、盗掘者がいいところだけ、つまり素人にも分かりやすい部分だけを取り去った残骸になった。
それらはもしかしたら世紀の発見だったかもしれない。科学的な概念を覆す存在かもしれないのだ。同じ砂漠を歩き回ってきた者として何とも歯がゆく、怒りしか覚えない。
日本で売られている化石は、中国、北米、アフリカなどからも来ている。各地での“乱獲”で、化石は確実になくなってしまう。骨目当てで、ただ掘り出してしまえば、貴重な情報は半分以上失われる。化石は掘るところから大事なのだ。
化石「フェア」の店頭で「ワイオミング州で出たティラノサウルスの歯ですよ、貴重なものです」と説明があったとしよう。あるいは説明プレートがついていたとしても、信じられるだろうか? ちょっと考えれば、その情報のいずれにも信頼性がないのが分かる。
素性が怪しい化石に、鑑定書を出す機関も専門家も存在しない。中国で化石の売買が禁止されるようになったとたんに何が起きたかというと、「モンゴル産」という説明がついた明らかに中国産の化石がマーケットに登場するようになった。そんな状況のなかで、限りある化石が消えて行っている。
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明日は第4回「ニセ恐竜論文事件」をお届けします。