クモヒメバチの思うがままに巣を張り仕舞いには体液を吸い尽くされ殺されるクモの哀しい最期【えげつない寄生生物】

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 ゴキブリを奴隷のように支配したり、泳げないカマキリを入水自殺させたり、アリの脳を支配し最適な場所に誘って殺したり――、あなたはそんな恐ろしい生物をご存じだろうか。「寄生生物」と呼ばれる彼らが、ある時は自分より大きな宿主を手玉に取り翻弄して時には死に至らしめ、またある時は相手を洗脳して自在に操る様は、まさに「えげつない!」。そんな寄生者たちの生存戦略に、昆虫・微生物の研究者である成田聡子氏が迫るシリーズ「えげつない寄生生物」。第12回は「クモの巣をデザイン操作するハチ」です。

 今回、円形の美しいクモの巣を作るゴミグモに寄生して自分の都合の良いように操っているのはクモヒメバチという寄生蜂です。しかも、その操作の対象になるのはクモの十八番ともいうべき「クモの巣」です。寄生蜂がなぜクモの巣のデザインを変えるのかを見ていく前に、クモとその糸のすごさについて少し触れたいと思います。

クモは昆虫じゃない

 ご存知の方も多いかもしれませんが、クモは昆虫ではありません。

 日本語ではクモのことも「ムシ」とひとくくりに呼ぶため、クモも昆虫であると思っている方も多いですが、生物学的には、「節足動物門鋏角亜門クモ綱クモ目」です。つまり、クモはクモだけで構成されている生物群なのです。

 昆虫とは6本足で体が頭と胸と腹の3分割で構成されています。一方、クモには足が8本あります。そして、頭と腹しかありません。胸はないのです。しかも、その頭と腹の境が曖昧です。

クモの糸は鋼鉄より強い

 クモは優秀なハンターであることが知られていますが、一番ポピュラーな捕獲方法は「巣を張って獲物を待ち伏せする」方法です。

 その巣を作るために用いるのが、クモの糸です。そして、このクモの糸がすごい繊維なのです。クモの糸は、同じ太さで比べると鋼鉄より強く、しかも、鉄の1/5くらいの重さしかありません。直径4センチのクモの糸があればジャンボジェットを持ち上げられると言われています。このように、あまりにクモの糸が強いため、クモの巣にすずめがかかって外れないことさえあります。

 また、クモの糸には様々な種類があり、水にぬれると長さが短くなる糸や、引っ張ると倍に伸びる糸などがあり、クモは必要に応じて使い分けています。このように、強いのに柔らかい、この相反する特性を兼ね備えているのがクモの糸なのです。

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