芸人の賃金保障はしない、今後も契約書は作らない――大崎会長が語った「吉本」の流儀

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吉本107年の歴史

〈今後、芸人の「直の営業」は会社への報告が義務づけられる。6千人の所属タレント全員に、その旨を記した「共同確認書」に署名させるという。が、これは、大半の芸人と契約書を交わしていない吉本の“文化”にそぐわないのではないか。また、大御所の明石家さんまが公言したように、多くの芸人は、ことあるたびに給与の安さを口にし、「直の営業」の背景には収入の不安定さがあると指摘する――。〉

 事務所と所属タレントとの契約は専属実演家契約といって、僕らは基本的に口頭でやっています。これを「諾成(だくせい)契約」といい、民法上、成立しています。紙一枚のこととはいえ、「サインしてや」というよりも、疑似家族というかミニ共同体として契約を超えた信頼関係が築けるのではないか、との考えなんです。芸人が「契約書ないねん」と言うのは、本当にないと思っているケース、本当は諾成契約を認識しているケース、あるいは、なんとなく知ってはいるけれど“俺らは吉本や”と主張したい場合があるのではないでしょうか。いずれにしても、諾成契約を変えることはありません。

 契約云々のほかに、芸人はよく、「吉本は給料安いからな」とか「吉本はケチ」と言います。ギャラの配分も、会社が9の芸人1、と。実はそんなことはないのですが訂正はしません。それで笑いがとれればいいのです。それに、僕はこれらを会社への愚痴と感じていない。会社に甘えてくれているんだと思っているのです。

 ギャラの配分はともかく、まだ食べていけない芸人に「最低賃金を保障しては」という議論があります。しかし、全員に払っていたら会社が潰れてしまう。ほかの事務所さんのように人数を絞り、それこそ、会社でプライベートも管理して面倒を見る方法もあるとは思うんです。でも、オーディションの段階で売れるかどうかなんて分かりません。

「宮川大助・花子」だって、もともとは大助さんが9割喋るスタイルだったのに、あるときハナちゃんが9割喋るように変えた。すると、一気に売れました。そういう未来を夢見て吉本に入ってきてくれるのはNSCという養成所の出身者がほとんどです。アルバイトをしながら共同生活をしたりして貧乏暮らしをし、深夜に会社や稽古場でネタを作る。苦しくても、夢に向かって頑張っているわけです。

 それが吉本らしさだと思っていますから。吉本で頑張りたいと言ってくれるなら後押ししてあげられます。いま吉本の劇場が日本に17あるのですが、渋谷やなんばに若手の劇場を作ったことで、NSCの卒業後すぐに、出演のチャンスがめぐってきます。いきなり多くのお客さんは入らない。でもプロの舞台に立つことができる。プロの舞台に立ったのなら、たとえ1円でも250円でも払うというのが会社の考え方です。

 これが、吉本107年の歴史で代々受け継いできたやり方です。本当に9対1であり、契約書がないのが嫌なら辞めてもいいと思うんです。変な言い方ですけど、よその事務所へ行くなりしてもいい。でも誰も辞めません。そんな吉本だからこそ、今回の一件は無念でならないのです。

週刊新潮 2019年7月25日号初出/2019年8月15日掲載

特集「トップ就任から10年『吉本・大崎会長』が明かす『闇営業』の核心」より

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