「オリンパス事件」仕立て上げられた「指南役」の収監直前「独占告発」(中)
1審では、オリンパスの元常任監査役・山田秀雄氏(執行猶予付き有罪判決が確定)が次のような証言をしました。
「400~500億円の損失があることを横尾に伝え、簿外融資をしてくれる外国銀行の紹介を頼んだ。その結果1998年春に、横尾から六本木のレストランでリヒテンシュタイン公国のLGT銀行の東京駐在事務所長・臼井康広を紹介してもらった。それ以前にLGT銀行の人間と会ったことはない」
この証言が、私がオリンパスの粉飾を知っていた証拠とされ、有罪判決が下されました。他のオリンパス関係者2人と、LGT銀行の臼井氏も同様の証言をしました。
ところがその後、山田氏らの証言を覆す2つの新証拠が出てきました。
1つ目は、民事裁判での、オリンパス元副社長の森久志氏(執行猶予付き有罪判決が確定)の証言です。その証言で、六本木の会食以前に、LGT銀行の頭取とアジア担当役員が、審査のためにオリンパスを訪問していたことが明らかになりました。
2つ目は、オリンパスが粉飾を公表した3日後の2011年11月11日に、オリンパスの顧問弁護士(森・濱田松本法律事務所)が森氏に対して行ったヒアリングです。その時の録音を書き起こしたオリンパスの内部資料が、『週刊エコノミスト』によって公表されました。森氏の発言によると、オリンパスが最初にLGT銀行を紹介されたのは、1998年の六本木ではなく、それより1年以上前に、森氏と当時の下山敏郎オリンパス会長がリヒテンシュタイン公国を訪問した時だったのです。
このヒアリングは、事件への関与を疑われていた顧問弁護士が、自らの無実を証明するために行われたという情報を得ています。
そのようなヒアリング資料は、必ず検察に渡っていたはずですが、検察が押収していたはずのこのヒアリング資料は開示されていません。
しかしこれは、LGT銀行を紹介したのが私たちでないことを証明できる重要な証拠です。
何と言っても、この「LGT銀行を紹介した」ということが、私たちが「指南役」であり粉飾を導いたとする最大の証拠であると検察が位置づけているものです。特捜部は、押収していた重要な証拠を意図的に隠蔽していたことになり、極めて重大な法令違反と言えます。
また、オリンパスの3人とLGT銀行の行員が、同じ内容の偽証をしているのも、極めて不自然です。この4名の証言は偽証だと指摘していた私に対して、検察は「彼らが偽証を行う理由はない」と断言しました。しかし、「偽証を行う理由がない」はずの彼らがこぞって偽証していたことが、森元副社長のヒアリング資料で証明されているのです。
そうなると、彼らの偽証は、「第三者に強要された」以外の可能性は考えられません。偽証教唆を行ったことを、特捜部が自ら認めているのも同然です。
「犯行日時」を特定しないまま
刑事訴訟法は、
「起訴状に記載される公訴事実は訴因を明示しなければならず、訴因の明示はできる限り日時、場所及び方法をもって罪となるべき事実を特定してなされなければならない」
「日時、場所及び方法をできる限り具体的に記載することは、審判の対象としての訴因を特定するために必要で、それを欠いた起訴状は訴因不特定として公訴提起の手続きの無効を来す」
と規定しています
六本木の会食で、私がオリンパスにLGT銀行を紹介し、ここから簿外融資が始まったと特捜部は断定していたのですから、幇助の始まりは会食日ということになり、関与の起点とされる「会食」の「日時、場所及び方法」は起訴状に記載されなければなりません。しかし、起訴状ではそれらは一切特定されず、記載されてもいません。
会食日の特定に関して、私は検察に要求し続けてきましたが、検察は一切応えず、裁判所も完全に無視してきました。
私がLGT銀行の人と会食したのは、1998年3月7日のことでした。羽田拓君がロンドンから帰国した日のことでしたので、彼の入国記録を調べて、この日を特定したのです。しかもその会食はたまたまのものでした。
ところが検察は、私がオリンパスに紹介したという「会食日」を一切特定しようともしない。私は何度も検察に言いましたが、結局高検の意見書には、「特定の必要なし」となっていた。しかもその理由が、「裁判所がわれわれに(会食日の特定を)要求しないから」だというのです。
この検察の行為は明らかな法令違反であり、この時点で本来であれば「訴因不特定」となって、「公訴提起の手続きは無効」になるはずです。刑事訴訟法は、そう定めているのですから。
しかも、この検察の荒唐無稽な信じ難い法令違反の意見を認めて、裁判所は私たちに判決を下している。これはどう考えても、裁判所までもが法令違反を犯していると言わざるを得ません。
しかも先に述べたように、あとから森氏のヒアリングメモが出てきて、これによれば、LGT銀行を紹介されたのはリヒテンシュタイン公国でのことであり、それはオリンパスがデジタルカメラを初めて売り出した時期だったと証言しています。つまり最初の接点は1996年ごろ、ということになります。そしてそこには、私たちはまったくかかわっていないのです。
さらに森氏は民事裁判で、LGT銀行の頭取と取締役が「融資前の審査」のためにオリンパスを訪れた、とも証言していました。私は、ならば両者の入国記録を出せ、と検察に迫ったのですが、「その必要はない」と、返事はノーでした。そこで日本弁護士連合会などにお願いして入国記録を取り寄せてもらったのですが、その日付は明らかに、私たちが会食した「1998年3月7日」よりも前だったのです。
検察はおそらく、こういう証拠があとあと出てくることを心配したから、「私がオリンパスにLGT銀行を紹介」した時期について、敢えて1997年から翌年2月とか春までの間、といったきわめて幅のある期間を設定していたようです。私の記憶では、会食日ははずしていたように思います。
「偽造」を「代筆」と強弁
私はLGT銀行の臼井氏に勧められて、1998年5月22日に頭取に初めて会いました。頭取が求めていたのは経済見通しの助言で、それを条件に合計60万ドル(当時のレートで約8000万円)の融資を提案されました。野村證券退職後の収入を考えていなかった私は、喜んでこの提案を受け入れました。
検察は、LGT銀行から入金された60万ドルを、「LGT銀行にオリンパスの預金を紹介した紹介料であり、オリンパスにLGT銀行を紹介した状況証拠」と断定しました。
しかし、私がLGT銀行にオリンパスを紹介したという事実はありません。検察はそれを認識しながら、山田氏らに偽証を教唆し、「60万ドルは、オリンパスを紹介した紹介料だった」という状況証拠を捏造したのです。
また、LGT銀行関連の書面には、LGT銀行東京駐在所の臼井氏が、私の署名を「偽筆」、すなわち偽造したものが数多く存在しています。これを見つけた私の弁護士は、「予定主張書面」で裁判所に指摘しましたが、それに対して検察は「代筆」であると主張しました。
言うまでもなく、「代筆」とは本人承諾のもと代理者が署名したものであり、対して「偽筆」とは本人があずかり知らぬところで「偽造」された署名で、犯罪行為です。
私は何度も異議を申し立て、裁判所に意見を求めましたが、刑事裁判の1審、2審は、私の意見書を完全に無視しました。
偽筆をした臼井氏自身は、私の名前を署名したことを私本人に伝えていなかった、と証言しています。また、LGT銀行には「代筆」制度がなく、私の名前を書いたことが露見すれば「辞めさせられていたかもしれない」とも証言しています。
さらに驚くべきことに、すべての偽筆はオリンパスの指示だったと認めているのです。
つまりオリンパスは、LGT銀行との取引において、私たちに隠さなければならない事情を抱えていたということです。その事情が「粉飾」だったことに疑いの余地はありません。
これらの署名が偽筆だと認められれば、私たちがオリンパスの粉飾を知らなかったことを証明できる決定的な証拠になります。しかし、臼井氏の証言を聞いた後の「論告要旨」においても、検察は代筆と主張し、裁判所は検察の主張を受け入れました。
しかも「偽筆」を「代筆」として認めることは、とんでもない問題を含んでいます。これは、日本の契約制度を根底から崩壊させるものです。簡単に言えば、どんなクレジットカードも「代筆」で、誰もが好き勝手に使える、ということになるからです。
M&Aがすべて「詐欺」になる
検察は、
「簿外損失を解消する為、簿外ファンドが持っていたベンチャー企業3社の株式を、横尾たちがファンドで高く買い取った。横尾たちはその株価に信憑性を持たせる為に、実現可能性のない事業計画を作成した」
「その株価の整合性を監査法人に印象づけるために、それらの事業計画が記載された資料を使って群栄化学工業を騙し、3社株を購入させた」と断定しました。
しかし事実は、群栄化学工業が購入したのは新事業3社が発行した第三者割当増資の株式であり、私たちが持っていた株式を売却したのではありません。私たちが保有していた新事業3社の株式は、オリンパスが3社を解散した時点で消滅し、それによって数千万円の損失を被りました。
これも言うまでもなく、事業計画とは、売手が、自ら提示する企業価値の合理性を示すために作成されるものです。いくら魅力的な成長率の事業計画を提示しても、その事業計画から算出されない企業価値を提示すれば、取引は成立しません。
まず事業計画についてですが、これについてはオリンパスから、将来どう成長していくか、できるだけ大きな絵を描いてほしいと頼まれて、ビジネス上書いたものでしかありません。ですから当然、右肩上がりの予想数字を書いていくわけです。
ところが、それが「実現可能性のない」ものであるから詐欺、ということになるのでしょうか。検察はそう主張し、裁判所もそう認定しました。
しかしそれでは、日本国内ではM&Aなどできなくなります。売り手の予想数字が間違えていたら全部詐欺罪が成立するというのなら、ベンチャーキャピタルなど成り立ちようがありません。私の裁判では、そんな異常な判例を作ってしまいました。そのことに、なぜ誰も気がつかないのでしょうか。
「無罪」の証拠で「有罪」に
裁判の過程で知りましたが、群栄化学工業から押収された資料に記載されている「事業価値」を示す資料は、私たちが作成したと言われている「事業計画」からは本来どうやっても算出できない意味不明な数字になっていました。しかも、計算方法を丹念に辿ると、事業価値算定の知識だけでなく、利息の計算方法である初歩的な「複利」の概念すら理解していない人物が支離滅裂な計算で算出していることが分かりました。新事業3社の資料には、決定的な間違いが合計80カ所以上ありますが、その中には、ひと目で分かる稚拙な間違いも数多く存在しています。
たとえば、「EBITDA」(財務分析上の指標の1つ)。これは税引き利益に対して税金、償却分、支払金利を足し戻した数字なのですが、資料では、財務費用を足し戻した形跡がなく、むしろ引いてマイナスになっている。こんな間違い、M&Aをある程度やったことのある人間なら一瞬でわかるきわめて初歩的なものなのです。
ところが、「ベンチャー企業3社の売買価格に信憑性を持たせるために、横尾らは実現不可能な事業計画を作成した」と検察は主張していますが、3社の資料に記載されている事業価値(売買価格)は、このように事業計画から算出できない数値になっているため、信憑性を持たせるどころか、むしろ信頼性を失わせる状態になっています。このような資料で騙されたというのは、理屈が通りません。財務会計の知識のない一般のお年寄りなどが相手ではなく、れっきとした企業と企業との取引ではあり得ないことです。ましてや、群栄化学工業は東証1部上場の企業で、日本証券業協会から「プロ投資家」と認定されている企業です。
私と羽田は、野村證券時代にM&Aの専門会社で勤務しており、債券計算の知識だけでなく、事業価値算定の知識も十分身に着けています。そんな我々がこのような資料を作成する訳がありませんし、説明することもできません。こんな資料を、投資経験が30年も40年もあるような人に、説明できるわけがないのです。ましてやこれを使って騙すことなどあり得ません。
私は、これらの間違いを指摘し続けましたが、検察と裁判所は私の指摘を無視するだけでなく、このような間違いだらけの資料を、群栄化学を騙した証拠として採用したのです。本来であれば私達が詐欺を働いていない証拠になるはずの資料が、あろうことか逆に詐欺を働いた証拠として採用されたのです。(つづく)
「オリンパス事件」仕立て上げられた「指南役」の収監直前「独占告発」(上)
【事件の概要に関する資料】(横尾氏提供)