介護現場で横行するセクハラ、ヘルパーの大半は泣き寝入りの実情

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股間を思いっきり蹴り上げる

 こうした悪質なケースは、報告を受けた上司が家族に連絡し、同様の事が起きたらサービスを停止すると警告するという。もっとも、これは犯罪として成り立つような気も……。

「介護ヘルパーは、利用者の家を訪問して介護するわけですから、密室の中で1対1になるケースが多い。そのため、ヘルパーは襲われたときのために護身術を身に着ける人が少なくありません。警察官の護身術と同じようなものですね。まず、声を上げる場合は、『助けて』ではなくて、『ドロボー』、『火事だ』と叫ぶ。人が来てくれるからです。手を握られたら、払う。私は柔道をやっていたので、投げ飛ばしたこともありました。怖かったのは、70代の元自衛官です。体格がよく、体重は80キロありました。あるとき、いきなり前から迫ってきたのです。普通、セクハラをやる人は、台所で料理をしていいたりすると、背後から行為に及ぶことが多い。元自衛官は前からきてギューッと抱きしめられ逃げることもできなくなりました。そこで私は相手の股間を思いっきり蹴り上げ、相手がたじろいだ隙に逃げました」

 元自衛官の介護は女性では危険なため、その後男性ヘルパーに代わったという。

「レビー小体型認知症の70代の男性は、注意力の低下、幻視、歩行が困難になったりして、興奮を促す薬を服用していました。ところが、この薬によって性的興奮を起こすことがあります。ある時、その男性の自宅に伺い、身支度をしていると、後ろに下半身を露出したその男性が立っていました。これは危ないと思い、テーブルの方に移動すると、追いかけてきました。そして、テーブルのまわりをぐるぐると追いかけっこをする形に。5分くらい走り回りました。いつまでも走っているわけにもいかず、テーブルの下に隠れて男性が落ち着くのを待ちました」

 96歳の男性からは、こんなことをされたという。

「普段は、まったくセクハラをしない方だったのですが、体力が衰え、死が目前に迫っているのを感じたのでしょうか、私に、“最後に1回やらせてくれ”と懇願するのです。私は、“お元気ですね、でも、私はお相手することはできません”といいました。その方はその1週間後に亡くなりましたが、死の間際でも、種の保存が組み込まれたDNAの強さを感じました」

 実は、男性介護へルパーもセクハラ被害を受けているという。同性愛者から、股間を触られたり、おばあちゃんを入浴させるとき、お姫様抱っこしてやると、頬にキスされることもあるそうだ。

 介護費は最高で月36万円。本人負担は年金額にもよるが、普通は1割負担なので3万6000円。最も安いのは月6万円なので、本人負担は6000円。これが全体の2、3割を占め、このクラスがセクハラの率が高いという。だが、ヘルパーたちはセクハラされても、法的に訴えるケースは、ほとんどない。

「セクハラをする人は、医者や教授、会社の社長とか、地位の高い人が多い。キャバレーなんかで、女の子の体を触って遊んでいたのでしょう。同じことをヘルパーに求めているのです。ヘルパーにはなにをしてもいいと思っている。セクハラでショックを受けて離職する人もいます。セクハラを受けて上司に相談すると、スキがあったんじゃないかといわれます。余程の事でない限り、利用者に抗議するのは仕事減につながるからです。結局、泣き寝入りとなってしまいます。この本でヘルパーへのセクハラの実態を知っていただきたいです」

週刊新潮WEB取材班

2019年8月14日掲載

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