「オリンパス事件」仕立て上げられた「指南役」の収監直前「独占告発」(上)

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【編集部】 2011年10月、内視鏡の世界シェア7割以上を占める精密電子機器メーカー「オリンパス」で、同年4月に就任したばかりだった英国人マイケル・ウッドフォード社長が突如解任された。が、同氏は直後、解任は内部の不正会計を隠蔽するためだと英紙『フィナンシャル・タイムズ』で告発。そして実際、第三者委員会の調査などで、同社が長年にわたり千数百億円に及ぶ巨額の損失隠しを行っていた事実が明るみになり、警視庁捜査二課や東京地検特捜部など司直の手によって刑事事件として立件された。いわゆる「オリンパス巨額粉飾決算事件」である。

 事件は最終的に、粉飾決算を主導した当時の経営陣のうち菊川剛前社長、森久志前副社長、山田秀雄前常任監査役らを金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載罪)容疑で逮捕(肩書はいずれも当時)し、投資会社の社長らが「共犯」として逮捕されたことで終息した。

 共犯とされたのは、投資コンサルティング会社「グローバル・カンパニー・インコーポレイテッド(GCI)」の社長だった横尾宣政氏、取締役だった羽田拓氏、前取締役だった小野裕史氏である(別ルートで共犯として立件された人物らもいた)。

 それらの刑事裁判のうち、元経営者らは当初から罪を認め、判決も有罪ではあったが執行猶予がついた。

 ところが、横尾氏ら3名は一貫して無罪を主張。判決も、横尾氏が懲役4年、羽田氏が懲役3年の実刑であり、小野氏が懲役2年、執行猶予4年だった。

 主犯である経営陣らは早々に保釈も認められ、判決も執行猶予付き。一方、共犯とされた横尾氏らは、無罪を主張し続けたため2年半以上も勾留され続け、実刑判決である。

 横尾氏は野村證券第2事業法人部などの証券マン時代、数々の大型M&Aや投資案件などで業界でも「最も稼いだ男」としてその名を轟かせていたこともあり、オリンパス事件では当初からマスコミでも「指南役」と報じられ、刑事裁判でもそうした位置づけで検察が構図を描き、裁判所もそれに従って判決を導き出した。

 いわば、マスコミ、検察によって「指南役」に仕立て上げられた。

 だが、最初の逮捕後に詐欺罪、組織犯罪処罰法違反でも再逮捕、追起訴されて異常に勾留が長引き、全員の証人尋問終了直前に訴因も変更されるなど、その司法手続きは異様な経緯を辿っている。

 そして抗弁虚しく2016年9月29日には上告が棄却され、2019年1月22日には最高裁判所への上告も棄却され、実刑判決が確定した。

 結果、本日8月14日午後1時に東京高等検察庁に出頭し、収監される。

 当初から一貫して無罪を主張してきた横尾氏は、関係者への証言強要ばかりか証拠の捏造、違法な司法手続きの数々について、検察ばかりか容認した裁判所の責任を問うべく、7月30日、日本記者クラブにおいて会見を行った。

 その際の内容に加え、さらに収監直前の8月5日、自宅にて応じた単独インタビューの内容も加え、主張の骨子をまとめた。検察と裁判所が一体となって進められた司法手続きの異様さが際立っており、戦慄すら覚える経緯である。

 なお、横尾氏は収監を前に8月9日、無罪を証明する決定的な証拠を添え、再審請求を申し立てた。その証拠とは、一連の公判中に関係者が証言したものであり、民事裁判では証拠として認定されてもいるが、横尾氏の無罪立証ではまったく無視されたものだという。さらに、2011年11月11日、森・濱田松本法律事務所が森元副社長に行ったヒアリングを記載した資料である。

 支援する法曹関係者からは、収監前の申し立ては裁判所を無用に刺激するだけだから控えたほうがよいとの助言もあったが、横尾氏の決意は揺るがなかった。

繰り返された検察の「偽証教唆」「証拠捏造」

 私と私の後輩、羽田拓君は966日間勾留され、同じく後輩の小野裕史君は831日間勾留されました。世間ではこのような長期勾留を「人質司法」と言い、日本の司法が抱える最大の問題だとされますが、これは問題の氷山の一角にすぎません。もちろん、「人質司法」が小さな問題だと言っているのではありません。

 欧米においては、そもそも完全に証拠を押さえなければ逮捕・起訴されることはなく、罪証隠滅という理由だけで勾留されることはありませんが、日本の場合は、さしたる証拠も持たない段階で逮捕し、長期間の勾留を続けながら証拠探しを行い、容疑者に精神的なプレッシャーを与えて自白に追い込むのです。

 私の場合は、捜査当局に呼ばれた初日から容疑者になっていました。その根拠を聞くと、新聞と雑誌の記事だけだと言われました。

 その後私は、徹底して検察に追い込まれました。

 なぜ私なのか、後にいろいろと聞いてみたのですが、1つには、事件発覚当時にオリンパス内部で、菊川剛前社長を潰したいという一派がいて、彼らがさまざまな情報を流していた、といいます。その中に、私や私の兄についての悪い話が相当あり、それを警察が見つけたのではないか、ということでした。私の担当捜査員は、「背広を着た普通の人でホッとしました。山口組に2000億円を渡した人だから殺されるかと心配していました」と言っていました。『ニューヨーク・タイムズ』に掲載された「横尾兄弟が山口組に2000億円を渡した」という記事のことを言っていたのです。

 もう1つには、あれだけの事件でありながら誰も実刑にならないというわけにはいかない、という捜査当局の考えがあったのではないか、というものもありました。

 最近、当時の記事を弁護士さんが集め、内容を確認してみると、検察しか知らない内容が数多く記載されていました。要するに、検察がばら撒いた出鱈目な記事をベースに、警視庁が私を容疑者にしたのです。

 そして、長期勾留を前提とした証拠探しが始まったのです。

 その上、逮捕から1カ月ですべての財産を差し押さえられ、私たちの会社は潰れてしまいました。本来的には、推定無罪の段階では、罪証隠滅の防止に対する費用は国が負担するべきでありますが、日本の場合は勾留という形で容疑者が全面的に負担しているのです。

 しかし、司法が抱える本当の問題は、このような「人質司法」ではありません。

 自らの都合が悪くなると時間稼ぎの為に次々と罪を捏造していき、それを立証する為に偽証教唆などの証拠捏造を繰り返し、自らに不利な証拠はことごとく隠蔽していく、検察の病的なまでの唯我独尊体質なのです。

 そして、そのような検察の法令違反に目を瞑っている裁判所も問題です。

 これらが許されてきたのは、彼らの情報を鵜呑みにして報道し続けてきた日本の報道体質に問題があったからではないでしょうか。事件発生時に検察が発信する情報を書きたて、いざ裁判が始まったら傍聴に行くことはない。たとえ長期間の裁判であっても、最後まで状況を把握していくマスコミのスタンスこそが、司法の正常化の原点だと思います。

 私の裁判は日本の司法の酷さを如実に物語っていますが、私に科せられた3つの罪がいかに理不尽なものであるかを具体的にご説明していくことで、日本の司法が抱える本当の問題点をご理解いただけると思っています。

事件の一部しか知らない「指南役」とは

 本題に入る前に、まず次のことを指摘しておきたいと思います。

 いわゆるオリンパス事件の報道では、私は粉飾決算の「指南役」と常に書かれています。しかし「指南役」と呼ぶならば、私は粉飾決算全体を、大局的に見ている人物でないとおかしいはずです。

 オリンパスの粉飾決算には、大きく分けて2つの要素があります。1つはベンチャー企業3社の買収であり、もう1つがイギリスの医療機器メーカー「ジャイラス」買収です。

 しかし私は、ジャイラス買収については一切何も知らなかったのです。それは判決文を見ても分かります。どの段階でも、ジャイラス買収についてのかかわりなど一切出てこないからです。

 そんな、事件の片方の要素しか知らず、全体像を把握していない私のような人間をなぜ「指南役」と呼ぶのでしょうか。

 実際にジャイラス買収にかかわったのは、中川昭夫氏と佐川肇氏でした(注:有報虚偽記載幇助で執行猶予付き有罪判決)。

 中川氏と会ったことはないのですが、中川氏の供述調書を読むと、「小さな会社3社については、横尾さんがやっているということを聞いていた」といった内容のことを証言しています。他にも私の名前がけっこう出ていました。

 ということは、中川氏は私が手掛けるベンチャー3社買収について知っていたわけです。ところが私は、ジャイラス買収について全然知らなかった。ということは、中川氏の方が粉飾の全体を知っていたことになるのではないでしょうか。

 ジャイラス買収についてもう1つ言いますと、この時に使ったアドバイザーは「ワッサースタイン・ペレラ」です。ここは「タイム」と「ワーナー」の合併や「ナビスコ」の買収といった大型案件をいくつも手かげてきた、アメリカでもトップのM&Aの会社です。そしてこの会社は、私も羽田君もよく知っているのです。

 私は野村證券時代、M&Aの仕事をずいぶんしておりましたし、「ワッサースタイン・ペレラ」にも出向していたわけですから、ジャイラス買収についてなぜ私たちを使わなかったのだろう、ということが一番の疑問です。中川氏や佐川氏も野村證券OBですが、彼らはM&Aの経験はゼロです。そんな人たちに相談しても、何にもならないと思うのです。(つづく)

【事件の概要に関する資料】(横尾氏提供)

オリンパス事件の解説

朝日監査法人の不正

LGT銀行の不正

訴因変更に関する木谷明弁護士の意見書

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Foresight 2019年8月14日掲載

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