働き盛り世代を襲う「スマホ認知症」の恐怖

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脳が「ゴミ屋敷」になる

 大人から子供に至るまで、静かに人々を蝕むスマホの害悪はなぜ起こるのか。

 そのメカニズムを改めて奥村氏に訊くと、

「人間は受け取る情報を脳の中にある前頭前野という部分で処理しています。スマホに依存した生活を送ると、インプットされる情報が多すぎて脳が疲労してしまい、処理能力が大幅に低下し、もの忘れやケアレスミスを起こすのです」

 脳を「図書館」に例えると分かりやすいという。

「本来、図書館は新しい本が入ってきても、毎日ジャンルごとに分類してストックしています。ところが、どうでもいいようなつまらない本や雑誌が大量に入ってきてしまうと作業が追い付かず、あっという間にゴミ屋敷のようになってしまう。ちゃんと決まった書架に保管されていれば、本を必要な時にスッと取り出せるのに、散らかっていたら見つけるのに時間がかかります。それと同じで、スマホから過剰な情報を頭に入れ続けると、脳に記憶したはずの情報が“行方不明”になりやすく、なかなか思い出すことができなくなるのです」(同)

 脳の情報処理には幾つかの段階があって、ヒトがボーッとする際に活性化する「デフォルトモード・ネットワーク」という回路が、情報を整理する役割を担う。つまり、何もしない無為な時間を脳に与えておかないと、回路が正常に働きにくくなってしまうというわけだ。

 さらに、脳の前頭前野は感情をコントロールする機能も持つ。そこが疲労すれば、理性的な判断に影響を及ぼすと奥村氏は指摘する。

「近ごろイライラしたり怒りっぽくなった、と思う方はスマホ認知症がかなり進行している可能性があります。そうなるとうつ病を発症するリスクが増大し、最終的にはアルツハイマー型認知症に至る場合もあります。一般的に30代から50代の方なら今すぐ発症はしませんが、脳の老化や疲労が進んだ状態を放置し続けていれば、高齢になって本物の認知症を発症するリスクが高まるのです」

 患者は何らかの睡眠トラブルを抱えているそうだ。

「なかなか寝つくことができなかったり、眠りが浅く夜中に目が醒めてしまうなどの不眠症状を皆さん訴える。これはスマホ特有の『光の問題』が関係しています。IT機器の画面から放たれる光には、ブルーライトという波長の短い光が多く含まれ、就寝時にこれを浴びればメラトニンと呼ばれる睡眠ホルモンの分泌量が落ちるのです。脳は寝ている間に疲労物質を代謝したり傷ついた細胞を修復しますから、睡眠が不足すれば情報処理能力は低下する。スマホを使うことで悪循環の連鎖が断ち切れなくなるのです」(同)

 とはいえ、スマホなくしては、もはや仕事にならない。SNSで家族や友人たちに連絡をとれなくなるのは困るだろう。何かよい付き合い方はないものか。

(2)へつづく

週刊新潮 2019年8月8日号掲載

特集「ジワリと増え続ける『スマホ認知症』の恐怖」より

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