「N国党」の強いパワー これから党を作るなら(中川淳一郎)

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 NHKから国民を守る党の立花孝志代表が参院選、勝ちましたね。立花氏がこの7年間ほど訴え続けてきた「NHKをぶっ壊す」というワンイシューは一部の人の心に刺さったということでしょう。

 同党に入れた人のことをバカ扱いするネットの声も多数ありましたが、今回の件は、いかにして人々の生活の実態に近いところで琴線に触れることを主張し続けるか、が重要であることを如実に示しました。

 同党の主張は「NHKをスクランブル放送化し、視聴を拒否できる自由を」というものです。そのうえで、立花氏が元職員の立場からいかにNHKが極悪な組織かを述べ、そんな組織に対し、望まぬ人はカネを払う必要はない、と説きました。

 実はコレ、共産党をはじめとした野党が主張した「消費増税反対」と同じぐらい強いパワーを持った公約だったのかもしれません。NHKの地上波を年間で契約した場合、1万4545円(継続振り込みの場合)で、衛星放送もセットにすると2万5320円(同)となります。これは、72万7250円と126万6千円を消費した際の消費税増税分(2%で計算)に相当するわけです。

 NHKの受信料を負担だと思っている人や、日々NHKの集金人からの「ピンポーン」の音がしたら居留守を使う人、恫喝とも取れる置手紙を残された人などからしたら、NHKの集金人はストレスの源です。

「払わなくちゃいけないのは知ってるんだよ。でも、オレ、NHK見ていないし、お金ないし、あの人達と絶対に喋りたくないんだよ!」

 こう思う人々がそれなりの人数いたからこそこのワンイシューは効果があった。イギリスのEU離脱にしても、簡単に言えば、以下のような主張が自分にとって切実だった人が大勢いたということでしょう。

「我が国は、我々ほど真面目に働いていない“お荷物国”のために多額のカネを払ってやっている。しかも、そうした国から来た連中に我々は職を奪われている! EUから離脱すれば、両方がなくなり、我が国にとってはメリットだけだ!」

 ここには一部誤りがあったりもするのですが、これは刺さった。

「郵政民営化選挙」も、「非効率の塊であるあの役所機構を民営化したら日本経済はバラ色です!」とやったら見事自民党が圧勝。

 東日本大震災以降、毎度イシューとなる「脱原発」ですが、これを掲げて国政選挙で勝った政党はありません。2014年の都知事選では、郵政民営化選挙の主役・小泉純一郎氏が細川護熙氏を担ぎ「原発即ゼロ」を訴えましたが惨敗。東京都民にとってはそこまで切実ではなかったのでしょう。

 一方「NHKとの契約選択制」は一部の人には刺さった。となれば、これから国政選挙を目指す人は以下のような党を作れば1人ぐらいは比例で国政に送り込めるかもしれません。

(1)肥満優遇党(2)呑兵衛天国党(3)自動車保有者はエライ党(4)残業拒否党(5)子持ち家庭こそ立派党(6)童貞差別禁止党⑦レジャー消費支援党

 強い言葉を使うことにより、有権者の心に響く“政策”になることは今回分かりました。私は(2)なら「我々酒税を大量に払っている者を優遇しろ!」と党に入るかもしれません。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2019年8月8日号掲載

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