高齢者を狙う「詐欺盗」が全国で急増中 「ホームレス中学生」の俳優も逮捕の衝撃

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 警察官や銀行員などを装い、個人宅に電話をかけて家族構成や資産状況を聞き出し、振り込め詐欺などを通じて現金をだまし取る――。そんな「ニセ電話詐欺」に“盗み”を組み合わせた新手の犯罪行為が「詐欺盗」だ。「ニセ電話詐欺」は犯人が被害者に対面することなく行う傾向にある犯罪だが、「詐欺盗」は自宅に直接押し掛けてくるのが特徴だ。高齢者を狙う、その卑劣な手口について、詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリストの多田文明氏に聞いた。

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 詐欺盗という犯罪は、2017年ごろから東京近郊や大阪などでみられるようになった。2017年は12月までに計12件(約880万円)の被害が発生。2018年は5月までに計56件(約7250万円)と、急増しつつある。

 この6月に、08年放送のドラマ「ホームレス中学生」で主人公を演じた黒木辰哉容疑者が逮捕されたのも、詐欺盗だ。黒木容疑者は7月31日に再逮捕されている。

「典型的な手法では、最初に警察官を装った男から『あなたのキャッシュカードが詐欺グループによって悪用されている』と電話があります。その後、銀行員を名乗る別の男からも『カードを新しく作る必要があるので、今からすぐに自宅に受け取りに行きます。その際、暗証番号を書いた紙も準備してほしい』と連絡が入ります」(多田氏、以下同)

 もっとも、犯人グループが扮するのは警察官や銀行員に限らないそうで、

「実際に家にカードを取りに来る時は、警察や銀行関係者を装うのですが、詐欺を実行する前にかけるアポ電では、デパートの店員や市役所職員になりすまして電話をかけることもあり、アプローチ方法が多様化しています。盗み取る時には、事前に用意していた偽のカード入りの封筒を渡して犯罪の発覚を遅らせるなど、より手が込んでいるのです」

巧みな話術でカードをすり替える

 では、詐欺盗のより具体的な手口を紹介しよう。

 昨年4月中旬、大阪府茨木市に住む60代男性宅に警察官を名乗る男から「あなたのキャッシュカードが偽造されている可能性があるので、金融庁の職員を自宅に向かわせます」と電話が入った。

 その男は一方的に話し続け、男性に考える時間を与えない。通話が終わらないうちに、今度は黒のパンツスーツ姿の同庁職員を名乗る女が訪ねてきたという。

 女は「カードをいますぐ止める必要があります。暗証番号を書いたメモと一緒にカードを封筒に入れて保管してください」と伝え、さらに「割り印を押すので」と印鑑も要求。男性が印鑑を持って戻ると、女は割り印を封筒に押させて「3日間保管するようにしてください」と告げ、そのまま立ち去ったという。

 その後、不審に思った男性が封を開けると、中身はキャッシュカードではなく、無関係のポイントカードだった。犯人の女は男性が印鑑を取りに行っている間に、あらかじめ用意した別の封筒とすり替えていたのだ。このケースでは幸い、被害が事前に発覚し、男性はカードの使用停止手続きを行い、金を引き出そうとした女は大阪府警に窃盗容疑で逮捕された。

 多田氏は、“詐欺盗”が増加する背景をこう語る。

「オレオレ詐欺が流行した頃は、ATMから現金を振り込ませようとする手口が一般的でした。しかし、今は振り込みの限度額が設定されたり、警察と金融機関がタッグを組み詐欺への監視を強めています。慌てた様子の人、あるいは携帯で通話をしながら振り込みを行う人に積極的な声掛けがなされるため、ATMで詐欺行為を働くことが困難になっている。となると、直接相手の自宅に出向き、警戒の目がないなかで、現金やキャッシュカードをだまし取ろうとするわけです」

 以前よりも捕まるリスクが高まるにもかかわらず、詐欺の手法を模索し続ける犯人グループ。この“詐欺盗”も苦肉の策なのだ。

電話に応じてしまったら専門窓口に相談

 今後、大型のイベントに絡めて、新たな詐欺の手口が出てくる可能性もある、と多田氏は警鐘を鳴らす。

「直近だと、改元にともなう詐欺でしょうか。たとえば『元号が変わったので、今までのキャッシュカードが使えなくなる』とかですね。ほかには、2020年東京オリンピックの入場チケット詐欺もありえます。誰でも知っているような時事ネタを利用する手口は、詐欺の常套手段なので注意すべきです」
 
 手口が巧妙化する“詐欺盗”にはどのような対策が有効なのだろうか。

「大前提ですが、まず身に覚えのない電話には真面目に応じないことが一番。もし受け答えをしてしまったら、警察に連絡しましょう。緊急性がなくてもかけられる警察相談専用電話『#9110』や、近くの消費生活相談窓口を案内してくれる消費者ホットライン『#188』に相談することが大事です。誰かに話すことで、冷静な自分を取り戻せます」

 ほかにも、お年寄りに対し、周囲の人たちが目配りしてあげることも重要だという。

「高齢者を見守る側が、その時々に流行している詐欺の手口を学び、気に掛けてあげることで、いち早く詐欺の兆候に気づけます。一番やってはいけないのは、被害を受けた人に対して怒ってしまうこと。そうなると、被害者の中にはまた同じような目に遭っても誰にも相談できなくなり、繰り返し騙されてしまう人も案外多いのです」

 大胆かつ巧妙な手口。あなたの老父老母は大丈夫ですか。

取材・文/福田晃広(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年8月6日掲載

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