アフリカの小国「マラウイ」の村を飢饉から救った「風車」と「少年」

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 タンザニアやモザンビークに囲まれたアフリカ南東部のマラウイは、九州と北海道を合わせたほどの国土に約1800万人が暮らす小さな内陸国だ。1964年にイギリスから独立して以来、紛争がないことから、「Warm Heart of Africa」(アフリカの温かい心)と呼ばれる一方、農業中心の経済状態は非常に厳しく、1人当たりのGNI(国民総所得)が320ドルと、最貧国の1つに位置づけられる。

 そんなマラウイで起きた奇跡の実話を描く『風をつかまえた少年』が、8月2日に公開された。数千人規模の死者が出たと言われる2001~02年の飢饉の中、1冊の本を頼りに廃品を利用して風車をつくり、村に電気をもたらした14歳の少年、ウィリアム・カムクワンバの物語である。

 風車という言葉すらなかった電化率2%のマラウイに、突如現れた“救世主”。その評判は地元メディアを通して世界中に広まり、2010年に刊行された『風をつかまえた少年』(ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー著)は23カ国で翻訳され、ベストセラーになっている。

麹町中学での特別授業

 本作は俳優のキウェテル・イジョフォーが10年がかりで実現した初監督作品。監督・脚本のほか主人公ウィリアム少年の父親役も演じた。イジョフォーは『それでも夜は明ける』(2013年)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた注目の俳優だ。

 困難な状況の中で解決策を見出そうと孤軍奮闘する少年の力強さ、科学そのものの面白さ、マラウイの抱える政治・経済の構造的な問題など、さまざまなメッセージが込められている。

 7月中旬にはカムクワンバ氏が来日し、東京・千代田区立麹町中学校で特別授業を行った。かつて風車をつくった時の自分と同学年の中学3年生を前に彼が語ったのは、いかに学びが人生を変えるかということ。

「風車をつくったことで、最初はラジオの電池を買う必要がなくなり、浮いたお金で別のものを買うことができました。タンザニアで開かれた国際会議に参加するため、初めて外国を訪れ、みんなの力で南アフリカの高校に通うことができ、アメリカの大学にも進学できました。人生にはいろいろな苦難がありますが、自分の道を阻むことを許さないでください。成長するきっかけ、やりたいことがクリアになる機会と捉えてください。挑戦を挑戦と思わないで乗り越えた人たちこそ成功者です」

 現在31歳になる彼は、2014年に米国の名門ダートマス大学を卒業し、2016年に同級生のオリビアさんと結婚。マラウイと行き来しながら若者の支援を行っているという。氏にマラウイの現状や自身の活動について話を聞いた。

――映画の感想は?

 グレート! とても満足していますが、自分の過去を追体験しなければならないので、どうしても2つの感情が交錯してしまいます。飢饉の時のことは見ていても辛いし、友達と過ごした時間や風車をつくった時間は、今見てもワクワクします。

――村の図書館で見つけた『エネルギーの利用』というアメリカの教科書が人生を変えたわけですが、教育の重要性についてどう思いますか?

 教育は何と言っても仕事に繋がりますが、それ以上に皆さんの人生により多くの選択肢をつくってくれます。自分のコミュニティ、自分の国の発展に結びつくような学びを得ることができるし、何世代にもわたって引き継いできた知識を、自分も積み重ねていくことができる。それも教育が持っている力だと思います。

 マラウイの教育は、まだまだ道は長いものの、正しい方向には進んでいると思います。昨年9月(マラウイの学期は9月~7月)から中等教育が無料で受けられるようになりました。ただ、それで学校の質が上がるわけではないので課題はありますが、より多くの子供たちが教育を受けられるだけでも違うのかなと思います。

――2001~02年の飢饉から20年近くが経ちますが、農業中心の経済構造は変わらず、電化率も伸びていません。

 経済を支えられるだけの収入を得ている人の数がまだ少ないのです。国民の多くは農業を営んでいて、農業に関する政府の施策が不十分ということもあります。たとえば、農業の効率を上げること、生産量を増やすこと、生産物の価値を上げることがまだまだ足りていないと思います。

 映画でも描かれていますが、タバコを生産する農家が増えたことでタバコの値段自体が下がってしまったので、問題が深刻になってきています。農業のイノベーションとともに、タバコ以外の作物も増やしていかないといけないという2つの課題があるのではないかと思います。

――飢饉の背後には洪水や旱魃の他に主食であるトウモロコシの備蓄を処分してしまった政府の失策もありました。今の政府に求めることは?

 特に貧困層、貧困地域の方々に必要な支援ができるような政策を望みます。

――マラウイの課題を解決するためにカムクワンバさんが行っている活動について教えてください。

 マラウイで「Moving Windmills Project」という活動を行っています。たとえば、太陽光を使って井戸から水を汲み上げるシステムをつくったり、手動で行っている種植えに機械を取り入れたりしています。

 さらに、今は資金集めの段階なのですが、若い人たちのための「イノベーションセンター」を立ち上げる予定です。具体的にどのようなことをするかというと、2カ月ごとに各学校や地域に「チャレンジ」をお届けして、それに対する「ソリューション」を提案してもらいます。

 たとえば、マラウイの水問題の解決法にはどんなものがあるのか。水の浄化システムでもいいですし、汲み上げポンプのシステムでもいいですし、井戸を掘るシステムでもいい。農業関係であれば、大豆を1番効率よく育てるためにはどうしたらいいか、コミュニティの中で畑をどうマネージメントしていくのがいいか、など。

 そして1番いい提案をしたチームをイノベーションセンターに招き、一緒に解決方法を実際に試してみるのです。イノベーションセンターには「メンター」と呼ばれる指導者がいて、様々な機器があって、材料があって、皆でソリューションを形にしていく。いろいろな幅広いチャレンジを皆で分かち合って、解決法を見つけていきたい。

 メンターは僕もやりますし、地元の方も呼びたい。僕は世界中にネットワークがあるので、海外の専門家に来てもらったり、電話で協力してもらったりということも考えています。地元の雇用の創出につながったらいいですね。

――未来の子供たちのためにどんなマラウイにしたい?

 皆が学校に行けて大学に進学できる、そういう国になって欲しいです。次の食事はいつ食べられるのだろうなんて思わなくて済むような、幸せな生活、人生が送れるような国になって欲しい。そして、僕たちの世代はできなかったけれども、彼らが大人になった時に、前の世代の人たちはちゃんと僕たちのことを考えてくれていたんだな、ちゃんと道をつくってくれていたんだなと思って欲しいと思います。

 この映画がそのきっかけになってくれたらと、本当に思います。だからこそ、イノベーションセンターというクリエイティビティを発揮できる場所を提供したいのです。

――日本の方々にメッセージをお願いします。

 映画を通して、不屈の心、やり通す力を感じて欲しいと思います。何をするにしても、負けない心でやり通すことが大切です。僕も風車をつくっている時は大変なこともありましたが、自分の中に希望があったから諦めなかった。もちろん人生にはたくさんの困難があるけれども、そういうものにぶつかっても、僕は自分の運命を困難によって定義づけられたくはなかった。自分の運命は自分でつくりたいと思った。そういう僕の思いを映画を見て感じていただければと思います。

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Foresight 2019年8月2日掲載

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