「ポスト安倍」有力の岸田政調会長、派閥の重鎮が落選で求心力低下

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 残った遺恨は次なる戦の原動力だが、自民党の総大将を狙う彼の場合はといえば……。このたびの参院選で配下の家来が討ち取られたのに、岸田文雄政調会長(62)は煮え切らない。このままでは落ち武者同然、求心力の低下は免れまい。

 次期総理として名前が挙がる岸田氏のお膝元、広島選挙区は明暗が分かれた。定数2の選挙区で2人の自民党公認候補が立ったが、当選したのは新人の河井案里(あんり)氏(45)のみだった。

 片や落選した現職の溝手顕正(けんせい)氏(76)は、

「2人出すのはやはりバカげた話。今後、自民党として考えなくてはいけない」

 と支援者らに頭を下げた。

 溝手氏といえば、国家公安委員長や防災担当相を歴任、党内でも前参議院議員会長や岸田氏の派閥・宏池会の最高顧問を務める重鎮である。さらに広島は、岸田氏の地元のみならず宏池会を作った池田勇人元総理や、かつて派閥の長だった宮沢喜一元総理の故郷。そのため過去2回の選挙では、野党候補の倍以上の得票で圧勝してきた実績もあって、党本部も「党勢拡大のため」を理由に2人の候補を立てたという経緯があった。

 けれど、自民会派のさる県議が明かすには、

「県連は岸田派に刺客が送り込まれたと猛反発したんです。当選した河井さんは元県議ですが、夫の克行氏は総裁特別外交補佐。実際、菅官房長官も応援に来て官邸との蜜月ぶりをアピールしましたし、安倍総理も溝手さんより先に河井さんの演説に立ったんですよ」

 これには理由がある。かつて溝手氏は第1次安倍政権で防災相を務めた際、参院選の惨敗で「首相責任論」を唱えるなど、安倍批判の言動を繰り返していたのだ。

 別の県連関係者が言う。

「安倍さんに睨まれたが最後だったのかもしれませんが、岸田さんの姿勢にも疑問を感じます。溝手さんは今回の選挙が“最後の挑戦”と言っていたんですから、岸田さんが党の要請を無視して複数擁立に反対したり、河井さんの出馬を1期遅らせるなど体を張って調整してくれたら、溝手さんは花道を飾れたと思いますよ」

 恨み節に溢れた地元をよそに、当の岸田氏は開票日の晩に出演した民放番組で、

「2人の自民候補を通すのは、難しい戦いだとずっと感じていました」

 と肩を落として話すのみ。終わってみれば、岸田派候補は秋田、山形、滋賀でも落選。所属議員が4人減で悲願の50人は幻となってしまった。

 先の県議はこう憤る。

「総理は広島の街頭に立った際、『令和の時代は岸田さん』と持ち上げたんですが、迎える側の岸田さんはまんざらでもない顔で一緒に河井さんの応援に入ってしまった。板挟みの立場なのは分かるけど、その姿に心底落胆しましたね……」

 禅譲を仄めかされた挙句に刃向う姿を見せられないとあっては、せいぜい「遺恨は残らない」と冷笑されるのが関の山だろう。そもそもが戦国武将たり得ず。

週刊新潮 2019年8月1日号掲載

特集「戦いすんで『令和デモクラシー』の悪夢」より

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