ジャニー喜多川氏はどこで「やる気」を見ていたか ジャニーズを支えた「育てる力」

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ジュニアから上に行くためのやる気とは

「やる気があって、人間的にすばらしければ、誰でもいい」というジャニー喜多川氏の選別基準については前回の記事でご紹介した。しかし、オーディションでジャニー氏の眼鏡にかない、高い倍率をくぐり抜けたからといって、デビューが保証されたわけではない。ジャニー氏が見ているのは「やる気」だ。

 前回同様、ジャニーズJr.のオーディションに参加した過去を持つ霜田明寛氏が、膨大な資料、放送記録をもとに綴った新著『ジャニーズは努力が9割』(8月1日発売)をもとに、ジャニー喜多川氏の人材育成術を見てみよう。(引用はすべて同書より。文中敬称略)

「ジュニアになってからも、“やる気”を常に見られています。(略)試験のために少しレッスンを休んでいると、戻ってきたときには立ち位置が後ろに下げられていた、というのはよくある話です。

 そのやる気は、デビューできるかどうか、という重要な局面にも関わってきます。

 ジュニア時代が長かった、V6の長野博のエピソードです。ある日、ジュニアだった長野のもとに、ジャニーから『スケートボードできない?』と電話がかかってきます。長野は、スケートボードの経験はなかったため、『できない』と答え、電話を切ります。しかし、それから間もなくして、またジャニーから電話がかかってきて、再び聞かれます。

『スケートボードできない?』

『だからできないよ!』と長野が答えると『ああ、そう』と言い、ジャニーは電話を切りました。長野は、なんで2度電話がかかってきたのだろう、ジャニーさんはボケたのかな、と疑問に思っていたといいます(※1)。

 しかし、ジャニーは決してボケていたわけではありません。このときに作ったのが、『スケートボーイズ』。SMAPの前身となるグループです。

 もちろんこのグループ、もともとスケートボードが抜群にできる少年たちの集まりではありません。そう、長野への電話は、その時点でスケートボードができるかどうかを聞いたものではなかったのです。経験がなければ、できないのは当たり前。

 質問は『できない?』でしたが、確認したかったのは“今、できるかどうか”ではなく、“やる気はあるか”ということ。それを確かめるために、『できない』と言っている長野に、2度も確認したのです。

 こうして長野はスケートボーイズ入り、という大きなチャンスを逃します。しかし、数年後、もう一度、チャンスはやってくるのです(※1)。

『バレーやらない?』

 こうして、ワールドカップ・バレーボールのイメージキャラクターとして結成されたのが、V6です。(略)

 当時のジュニアたちも、バレーをすることが、まさかCDデビューにつながるとは思っていなかったのでしょう。しかしこのときは、長野はきちんと手を挙げ、晴れてデビューを果たします。ちなみにこのV6のメンバー選抜時も、やる気のない人間をメンバーから外したことを、ジャニーは証言しています。

『V6もそうです。“バレーやらない?”と声をかけて手をあげた人。キャリアがあってメンバーに入れたい子に声をかけたら“バレーなんかやってどうするの?”。やる気がない人を無理にひっぱってもしょうがないでしょ。あとで“なんで僕を入れなかった”って。

 あれだけ確認したのに、“君がそんなことやりたくないって、言ったでしょ”。そういうのが3人いた(※2)』

 やはりデビューにおいても、ジャニーの選抜基準はやる気。すなわち『できる/できない』ではなく『やるか/やらないか』だったのです」

頑張るのは当たり前

 ジャニー氏の「やる気と人間性」を重視する姿勢を象徴するエピソードとして、霜田氏が紹介するのは、堂本剛についてのこんなエピソードだ。

「堂本剛は、ジャニー喜多川に、怒られたことが一度だけあるといいます。それは、先輩のコンサートにジュニアとして登場し、ステージ上でコメントを求められた時のこと。

『元気に頑張ります!』という剛。特に珍しくない、多くのアイドルが言うであろう定型的なコメントです。しかしその後、ステージ裏にジャニー喜多川がやってきて、剛を怒ったのです。

『頑張るのは当たり前だよ!』

 その時、幼い剛の中に『そうか、頑張るのは当たり前なのか』という印象が強烈に残ったのだといいます。それから、後にも先にも、ジャニー喜多川が剛を怒ったことはありません(※3)」

 同じ堂本剛については、「人間性」に関するエピソードもある。

「1997年、Kinki KidsがCDデビュー直前の春のことです。デビュー前とはいえ、その年の夏にデビューすることになる2人の人気はすでに沸騰している時期でした。そんなある日、剛が歌番組の収録を終えた時のこと。汗をびっしょりかいた剛のもとに、スタッフが大勢やって来て、うちわを持って扇ぎます。

 ジャニー喜多川はそれを『あ、ごめん、剛には手がある。自分でやるから』と止めたのでした。

 ジャニーは『一番こわいのは、周りがちやほやしすぎること(中略)スター扱いしてるだけのジェスチャーなんだよ。あんなのは大嫌いなんだ(※2)』と語ります。

 人気が出ても、人間性が壊れないように意図するジャニー喜多川の配慮がうかがえます」

 霜田氏は、この「配慮」の特筆すべき点として、「褒めて伸びる人、けなして伸びる人」を見分けていたところだ、と指摘している。その証拠に、堂本光一は、常に「ユー、ヤバいよ」と言われていたのだという。

 誰を叱り、誰を褒めるか。その育成術については次回に譲ろう。

※1 NHK-FM「今日は一日“ザ少年倶楽部”三昧」2012年6月17日放送
※2 「AERA」1997年3月24日号
※3 フジテレビ「新堂本兄弟」2012年7月22日放送

デイリー新潮編集部

2019年7月31日掲載

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