大谷翔平の活躍次第 米球界にゴロゴロいる二刀流の“逸材”が開花する可能性

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 米国には、大谷翔平のような二刀流として素質を備えた“逸材”が眠っている--。

 昨シーズンに二刀流で活躍した、ロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平が残した記録には、「ベーブ・ルース以来」のフレーズがしばしば用いられた。たとえば、「先発登板&白星の次の出場試合で野手先発&ホームラン(4月1日、3日)は1921年のルース(6月13日、14日)以来」、「シーズン20本塁打&10登板以上(22本塁打&10登板)は1919年のルース(29本塁打&17登板)以来」といった具合だ。こうしたフレーズは、今日でも誰もが知っているルースと並べることでわかりやすく、インパクトも強くなる。それとともに、メジャーリーグから本格的な二刀流選手がいなくなって久しいことを物語っている。

 だが、米国のアマチュア球界をみると、二刀流選手は“絶滅危惧種”ではない。

 米大学野球には「ジョン・オルルード賞」というアウォードが存在している。正式名称は、「ジョン・オルルード・2ウェイ・プレーヤー・オブ・ザ・イヤー」で、2010年にスタートした賞だ。これは投手としても野手としてもプレーする大学生から選出され、そのシーズンに最も優れていた選手に贈られるもの。ジョン・オルルード賞の受賞者が決まるまでには、ウォッチ・リストの25人が発表になり、そこからファイナリストの5人に絞られる。選考対象は「20イニング以上もしくは6セーブ以上」で、どんなに少なくても25人以上の二刀流選手がいることになる。

 そこに名前を冠されているオルルードは、1989~2005年にメジャーリーグでプレーし、1993年は首位打者を獲得した。シアトル・マリナーズでは、イチローとチームメイトだったので、覚えている方もいるかもしれない。スラリとした長身で、穏やかなルックスの一塁手。守備の時もヘルメットをかぶっていたのが印象的だった。メジャーのマウンドに上がることは一度もなかったが、ワシントン州立大では投手としても活躍した。

 受賞した選手を振り返ると、話題になった選手も少なくない。

 受賞者の一人には、今シーズン、先発投手とDHとして、それぞれメジャーデビューを果たしたブレンダン・マッケイ(タンパベイ・レイズ)がいる。彼は、2015~17年に3年続けてジョン・オルルード賞を受賞している。連続で選出されたのは、二刀流の大学生がほとんどいなかったのではなく、ルイビル大時代のマッケイの実力が突出していたためだ。

 昨年の受賞者は、ステッソン大でクローザーとDHとしてプレーしたブルックス・ウィルソンだ。その前月のドラフトで、ウィルソンはアトランタ・ブレーブスから7巡目・全体202位指名を受け、プロ入りしている。ただ、マッケイと違い、ウィルソンはブレーブスに入団後、投手に専念している。2人の前に受賞した5人のなかにも、プロ入り後に二刀流を継続した選手はおらず、野手と投手のどちらか一方を選択している。

 ただ、米球界に二刀流選手が多く存在することを考えると、大谷やマッケイが二刀流として活躍すれば、それに続く選手が増える可能性はある。野茂英雄が日本球界を飛び出して、メジャーリーグで新人王を受賞した後、日本から渡米する選手が続々と現れたように……。

 今年のドラフトで、エンジェルスは3人の二刀流選手を指名している。その道は容易ではないとはいえ、二刀流の選手を生み出していく土壌はあるといえるだろう。

 大谷翔平の活躍は、米球界の未来をも変えていくかもしれない。

宇根夏樹(うね・なつき)
1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライターとして、『スラッガー』などに執筆している。著書『MLB人類学-名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

週刊新潮WEB取材班

2019年7月28日掲載

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