たのきんDASH村があれば…(中川淳一郎)

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「食彩の王国」(テレビ朝日系)という番組が好きで毎週観ています。同番組には一つの「型」があり、まずは品質の高い食材の生産者が登場して、その人の奮闘が描かれます。続いてその食材にホレ込んだ料理人が登場し、独創的な料理を振る舞うと、生産者が「こんなにおいしくなるんですね」と感動して終了、という流れです。

 品質を守る苦労なども描かれますが、「1980年代まではこの地域でも○○づくりは盛んだったのに、今では後継者不足に悩んでいます」となる。そこに若き生産者が、その火を絶やすな!とばかりに立ち上がる。しかし、(野菜の場合は)途中台風で全滅し収入がなくなったりするのですね。落ち込む彼ですが、ひょんなことから糖度が高くなるきっかけを見つけ、この野菜が大ブレイク、となります。

 第1次産業をめぐっては、こうした成功譚はあるものの、常に取り沙汰されるのは後継者不足です。成功者が登場する同番組でさえ、この問題と無関係ではいられません。

 後継者不足の理由として、私と同世代の第2次ベビーブーマーが「第1次産業は遅れてる・ダサい」との印象を子供の頃植えつけられていたことも影響していると考えます。何しろ80年代中盤、小学校の社会の教科書の論調はこんな感じでした。

〈公害病及び赤潮・青潮など環境汚染は確かに酷いが、日本には国と雇用を支える見事な工業地帯が4つある(京浜・中京・阪神・北九州)。さらには瀬戸内工業地域や東海工業地域もあり、これら“太平洋ベルト”により日本は繁栄を迎えているのである。公害病もここしばらくは発生していない〉

 農業の扱いはといえば、強調されたのが「機械化貧乏」でした。農家はトラクターや田植え機などを買うために多額の借金をし、貧乏になる、という話です。さらには、中国の人民公社やソ連のコルホーズとソフホーズがあまり機能していないことも挙げ、「だから農業はダメなんだ!」と徹底的に叩き込まれました。

 いつしか子供達は製造業のサラリーマンこそ目指すべき道である、と思うほか、農家の子供達をバカにするように。祖父が農業をやっている同級生もいましたが、彼らはその事実を隠していました。あくまでも「お父さんはサラリーマンをやっている。僕も農家にはならない」と言うのです。学校で教えられる内容と、同級生が農業をバカにする姿を見ているだけに、農家の孫であったとしても、「ウチのお爺ちゃんはダサいんだ」と思わされる空気があったのです。

 しかも、私が84年3月までいた神奈川県川崎市では、米飯給食がゼロでした。4月に東京都立川市に引っ越したら週に1回だけ米が出てきました。これも「日本は工業製品を大量に輸出し、パンや麺の材料となる小麦は輸入すればいい。米は時代遅れだ!」的な発想を当時の政府や農林水産省が持っていたのかもしれません。

 どんな大企業に勤めようが安泰ではない今の日本。結局最後は食べ物を握っている人が勝つわけなので、なぜベビーブーム世代に農業への憧れを抱かせる教育をしなかったのだ……。あぁ、あの頃「たのきんDASH村」という番組企画があれば良かったのに。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2019年7月25日号掲載

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