義兄弟を皆殺し! 別種の巣に産み落とされたカッコウの雛のサバイバル術【えげつない寄生生物】
ゴキブリを奴隷のように支配したり、泳げないカマキリを入水自殺させたり、アリの脳を支配し最適な場所に誘って殺したり――、あなたはそんな恐ろしい生物をご存じだろうか。「寄生生物」と呼ばれる彼らが、ある時は自分より大きな宿主を手玉に取り翻弄して時には死に至らしめ、またある時は相手を洗脳して自在に操る様は、まさに「えげつない!」。そんな寄生者たちの生存戦略に、昆虫・微生物の研究者である成田聡子氏が迫るシリーズ「えげつない寄生生物」。第11回は「カッコウの托卵戦略・後編」です。
カッコウの雛は他の卵と雛をすべて殺す
別の種の母鳥の巣に紛れ込んだカッコウの卵はこの後どうなってしまうのでしょうか。たった1羽で母親も兄弟も仲間もいない状態で、それでも生き残らねばなりません。
巣に紛れ込んだカッコウの卵は仮親によって毎日温められ、10~12日後に孵化します。カッコウの孵化は早く、同じタイミングで仮親が産卵していた場合、カッコウの卵の方が1~2日早く孵化します。いち早く孵化したカッコウの雛は、まだ目も見えておらず、羽も何もない状態です。しかし、この状態でも、カッコウにはやらなければいけないことがあります。他の本当の子どもたちすべてを抹殺するのです。カッコウは孵化するとすぐに同じ巣にある仮親の本当の子どもたちの卵を背中に乗せてうまく巣の外に出していくのです。
仮親の子どもたちをすべて殺さなくてもいいのではないかと思いますが、カッコウにとって仮親の子どもをすべて殺さなければ自分が生き残る可能性がぐっと減ります。先にも述べましたがカッコウは仮親よりもかなり大きな鳥であるため、成長するためにはかなりの量のエサを必要とします。親からもらうエサを独り占めしなければ、生き残れないかもしれません。また、仮親の雛が成長していったら、あまりにもカッコウの雛と本物の雛たちの姿形が違うために、仮親に気づかれてしまうかもしれません。
このような危険を回避するためにも、カッコウはできるだけ先に孵化し、他の卵を抹殺するのです。しかし、カッコウの孵化が早いといっても、1~2日の差です。時には仮親の雛たちが先に生まれていることもあります。しかし、仮親の雛は、他の卵を巣の外へ落とす習性などはないため、カッコウは後からでも、無事に孵化することができます。また、カッコウの雛は、体が少し大きいため、あとから孵化したとしても仮親の雛たちを次々と巣の外へ追い出すことができます。
タイムリミットは3日間
このようなカッコウの雛の他者の排除行動は孵化して3日間のみしかおこなわれません。この3日間で、仮親の卵や雛をすべて排除しなかった場合は、飢え死にするか仮親に殺されてしまう危険性があります。
そして、不思議なのは、仮親はカッコウの雛のこのような行動を止めないことです。カッコウの雛が少し大きいといっても、生まれたばかりの雛は力も弱く、卵1つを背中に乗せて巣の外に出すのは一苦労です。3日の間に何度も何度も失敗しながらこの行動を繰り返します。他の卵を巣の外に押し出そうとするカッコウの雛を仮親は、傍観し続け、その間もカッコウの雛にエサを与え続けます。
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