朝日新聞「ハンセン病家族訴訟」大誤報、釈明記事でも重大事実を隠蔽していた
なぜ1面トップだったのか
思い起こされるのは、福島第一原発事故に関わる「吉田調書」報道における大誤報である。朝日は独自に入手した調書をもとに、原発の所員らが〈所長命令に違反 原発撤退〉したと報じたが、そのような実態はなく、最終的に記事の取り消しに追い込まれた。あの時は東電及び原発を“悪者”に仕立てる意図が記事の背景にあったと見られているが、今回、選挙中の安倍総理率いる自民党にダメージを与えたいという思惑があって「控訴ありき」で取材を進めたのだとしたら、まさに「第二の吉田調書事件」ということになりはしまいか。それを匂わす「状況証拠」もたっぷりある。
「まずそもそも、あのネタを1面トップで報じたこと自体、首を傾げざるを得ない。『控訴断念』であれば異例のことなので1面でもいいかもしれませんが、特に驚きのない『控訴』で、なぜあの扱いだったのか。朝日にぜひ聞いてみたいものです」(先のテレビ局の政治部記者)
元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏が言う。
「国が訴えられた時には法務省の訟務局が中心となって控訴するかどうかを検討します。最終判断は行政のトップである首相に委ねられますが、国が賠償を命じられた際、慣習的には控訴するのが通常の流れです。賠償には多額の税金が絡むため、一審の裁判官の判断だけでは、国民への説明責任を十分に果たしていないと考えられるからです」
さらに、今回の熊本地裁判決では、歴代の厚生大臣などの責任にまで言及しており、政府にとって簡単に承服できる内容ではなかった。実際、
「周囲から取れる情報だけを見ると、官邸が『控訴』という判断に傾いているように見えたのは確かです」
と、先の全国紙の政治部デスクは言う。
「杉田和博官房副長官は8日朝、“控訴断念というのは、事務方としては承服できない”と発言しています。同時に、“最後は総理が決めることだ”とも言っており、記者たちに釘を刺すことも忘れていません。なお、その囲み取材に朝日は参加していなかったようです」
大誤報翌日に掲載された「釈明記事」で、朝日は取材の経緯を次のように説明している。
〈8日、「ハンセン病関連で首相が9日に対応策を表明する」という情報とともに、控訴はするものの、経済支援を検討しているとの情報を得ました。さらに8日夕、首相の意向を知りうる政権幹部に取材した結果、政府が控訴する方針は変わらないと判断しました。このため朝日新聞は1面トップに「ハンセン病家族訴訟、控訴へ」との記事を掲載することを決めました。
しかし、首相は9日朝、記者団に控訴しない方針を表明しました。首相の発言を受け、これを速報するとともに、おわびの記事を配信しました〉
お気づきだろうか。
この「釈明記事」では、8日の夕方以降、朝日の記者が“ウラ取り”のために何をしていたのかが一切書かれていないことに――。
「記者の大事な仕事の一つが“夜回り”です。今回のような大きなネタでは、それがより大事になってくる。しかし釈明記事には夜、何をしていたのかが全く書かれておらず、不可解というしかない」(先のテレビ局の政治部記者)
[2/3ページ]