輸出規制に文在寅は打つ手なし、日本を非難するほど半導体は「韓国離れ」の皮肉
「歪曲報道の朝鮮日報」
――「朝鮮日報はまた歪曲報道」とは?
鈴置: 朝鮮日報を含む韓国メディアは7月10日の康京和・外交部長官との電話協議で、ポンペオ国務長官が「理解する」と語ったとして、いかにも仲介に乗り出すかのように報じました。
しかし「日本に追い詰められた韓国 米国に泣きつくも『中国と手を切れ』と一喝」で申し上げたように、米国側の発表は全く異なるものでした。
この時も、朝鮮日報の記事のコメント欄には「VOAを見よ。事実は朝鮮日報の記事と全く異なるぞ」との読者の指摘が載りました。
政府に厳しい朝鮮日報だけは本当のことを書くと思っていたのに、ハンギョレみたいになってきた、と失望する韓国の保守が増えているのです。
――なぜ、朝鮮日報も「歪曲報道」するのでしょうか?
鈴置: このまま日韓対立が深刻化すれば大変なことになる、と心配しているからでしょう。そこで「米国が仲介してくれる」との希望的観測をついつい、記事にしてしまうと思われます。
日韓対立が深まれば、保守派として「文在寅政権の責任だ」と書けますが、韓国人としては、それは避けたいのです。
結局、韓国の被害を恐れる保守系紙も、文在寅政権を擁護したい左派系紙も「米国が助けてくれる」と書いてしまうわけです。
そんな韓国メディアの歪曲報道を見越して、VOAも――米政府も、ポンペオ発言なりトランプ発言の「正しい読み方」をわざわざ韓国語版で報じているのかもしれません。
突然の利下げ
――韓国人も「まずい」とは思っているのですね。
鈴置: 経済的な大打撃を受けると懸念しているのです。7月18日、韓国銀行(中央銀行)は突然に利下げしました。3年ぶりに基準金利を0・25%下げて年1・50%としたのです。
韓銀は米国の利下げを待って下げるとの見方が大勢でした。ウォン金利を先に下げると、資本逃避が起きかねないからです。予想に反し米国に先行したのは「日本の輸出規制強化で景気が悪化するのを防ぐため」と韓国では見なされています。
韓国銀行は同じ日に「2019年 下半期の経済展望」を発表しましたが、2019年の成長率見通しを2・5%から2・2%に引き下げました。
7月23日には韓銀の李柱烈(イ・ジュヨル)総裁が国会で「日本の輸出規制によるマイナスの影響が拡大すれば、今年の経済成長率はさらに低下する可能性がある」と述べています。
韓国人なら誰もがこれ以上の景気悪化を食い止めたい。そこで韓国紙は日本語版でも「トランプが介入するぞ」と報じ、日本に「規制をやめよ」と圧迫しているのです。日本語版を読んで「日本が孤立している」と信じてしまう日本人も結構いますし。
一方、韓国人に対しては「大丈夫だ。トランプが助けてくれる」と元気づけたいのです。が、韓国人もだんだんそれを信じられなくなってきた。これには文在寅政権も手の打ちようがない。
メモリーは余っている
――そこで韓国メディアは「日本の輸出規制は日本の首を絞める」と書くのですね。
鈴置: その通りです。「世界を混乱させる日本は世界中から非難されるだろう」と、以前にも増して熱心に書くようになりました。
日本政府が韓国向けの素材輸出を規制すれば半導体の生産が滞り、ユーザーが困って日本批判を始める、とのロジックです。韓国紙には連日のようにそう主張する記事が載ります。
例えば、朝鮮日報の「『韓国がなくなればIT生態系に打撃』…アップル、台湾企業も大いに懸念」(7月22日、韓国語版)です。もちろん翻訳し、同じ日に日本語版に「『韓国なしではIT生態系に打撃』…アップル、台湾企業も懸念」を載せています。
韓国語版で韓国人の士気を鼓舞する一方、日本語版で日本人に「規制を強化すると日本が墓穴を掘るぞ」と脅す――。2面作戦です。
ただ、韓国紙が訴えるこの「懸念」も、幸か不幸か今のところ現実化していない。「北朝鮮への『横流し疑惑』で、韓国半導体産業の終わりの始まり」で説明した通り、世界市場で韓国が生産の過半を担う半導体――メモリーは供給過剰で余っているからです。
それに日本政府は素材を全面禁輸するわけではありません。韓国の半導体メーカーが「本当に必要な分」の素材は輸出を許可するでしょう。米国や日本のメーカーもあり、世界からメモリーが消えてなくなることはないのです。
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