テスラ社の自動運転車で初の「交通事故」 夫を奪われた妻の悲痛な叫び
「居眠り」はしていたが…
ご存知の通り、世界中の自動車メーカーやグーグルをはじめとするIT企業は目下、自動運転技術の開発にしのぎを削っている。なかでも、「鉄腕アトム」のようなSF作品に親しんできた日本人が、夢の次世代技術に期待の眼差しを向けるのは自然なことかもしれない。
また、今年4月に東京・東池袋の路上で87歳の男性が運転する車が暴走し、多数の死傷者を出すなど、高齢ドライバーによる痛ましい事故も後を絶たない。こうした悲劇をなくす意味でも、自動運転車の早期導入を望む声は高まるばかりだ。
しかし、冒頭の事故を巡る裁判では、そんな夢の「自動運転車」が、「暴走」の果てに人命を奪ったのではないか、という点が争われているのだ。
問題となった「モデルX」はアメリカの著名な実業家、イーロン・マスク氏が立ち上げたテスラ社製の車で、日本では2016年から販売が開始された。
自動運転の段階としては掲載表における「レベル2」に該当する。ちなみに、レベル3以上は現在、日本の公道では走行が許されていない。
テスラ社のHPではモデルXを〈史上最高の安全性と性能を持ち〉、〈ほとんどの状況下で作動する将来の完全自動運転に対応するハードウェアが搭載されています〉と紹介している。
今回、事故を起こした車両は、自動緊急ブレーキや、正面衝突警告システムに加え、「トラフィックアウェアクルーズコントロール」なる機能が作動する設定となっていた。これは、前方の車両と一定の車間距離を保ち、自動で追従走行する機能を指す。
櫻井さんの遺族によれば、被告人側の主張は概ね次のようなものだった。
・事故当時、被告人が居眠りをしていたことは認める。
・しかし、事故を起こす直前までは、居眠り運転でありながらクルーズコントロール機能によって安全に運転されていた。
・ただ、事故の2秒前にこの機能が故障。前方の障害物を認識しないまま加速する「暴走」状態に陥った。
・自動ブレーキも警告システムも全く作動せず、事故に至っている。
・被告人はアクセルもブレーキも踏んでいない。システムの故障が原因なので、被告人が起きていたとしても事故は回避できなかった。
――したがって、「被告人は無罪」というわけである。
事故の直前に、テスラ車の前を行く車両が車線を変更しており、その際、前方の人影を感知できなかったテスラ車が、自動的に車間距離を詰めようとして加速した可能性もある。さらに、被告人は事故の衝撃で目を覚ましている。つまり、事故当時のモデルXは、図らずも完全に人の手を離れた「自動運転」状態にあり、コンピューターシステムの「暴走」が事故に繋がったこと自体は否定しづらい。
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