「ソレ、誤解ですから!」自衛官募集動画が話題 しかし現役自衛官の本音を聞くと……

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残業の概念がない!

 艦艇勤務の海上自衛官は言う。

「体育会系の出身ばかりでないとかはいいですよ。確かに、そういう自衛官もいますからね。しかし、『残業ありせーん!』とは何ですか! 『自由がなさそう』という誤解に対して、『夜はゲームしてます』と笑いながら答える陸上自衛官を見たときには殺意すら湧きました。陸自さん、そんなにヒマなら海に人を回してくれと。こっちは残業どころか、もう何日もろくに寝てないんです。自衛隊に残業がない? とんでもない。残業という概念がないだけです。ですから、残業代だってありません。そんなことを上官に訊こうものなら、ぶちのめされますよ。なんでこんな広報ビデオ作ったんですかね。『先輩、怖そう』という問いに『そんな時代じゃないですよね』なんて言ってるけど、広報ビデオでそんなこと言わせる組織って、むしろ怖くありませんか?」

 海上自衛官ばかりではない。陸上自衛官も怒っている。

「『給料低そう』というのが誤解だという部分では、若い隊員が買ったばかりの新車の前で『(クルマ)買っちゃいました!』とか、ロレックスのサブマリーナなのか、高級そうな腕時計を見せつけて『買っちゃいました!』と満面の笑みを浮かべているのには驚いたし、呆れました。我々国家公務員のボーナスが7年連続で増えたことが報道されたばかりですが、そのお金は国民の税金からいただいているわけです。民間のサラリーマンの給料が横ばいの中にあって、こんなビデオを作る本省は一体何を考えているのか。実際のところ、大した給料はもらっていないわけですよ。残業代も付かないのですから。それなのに、ご近所さんから高給取り、下手すりゃ税金ドロボウのように言われて、我々は迷惑するだけですよ」

 もちろん、「こうするしかなかったのだろう」と同情する自衛官もいる。

「自衛官は減り続けていますからね。若い人が入ってこないし、それ以上に辞めていく自衛官が増えている。ですから、イメージアップを図って、なんとか増やしたいという気持ちはわからないでもない。身体検査の合格基準も変更しましたしね。これまで、男子の身長は155センチ以上でしたが、この4月からは150センチ以上に。胸囲、肺活量の基準も廃止されました。とにかく、隊員を増やさなければ、自衛隊は回っていきません。だけどね、ああいうのを見て入ってこられても、困るんだよなあ。いくら『体育会系でなくていい』とは言っても、懸垂くらいできなきゃ使い物にはならんでしょ。だけど、懸垂が不得手な隊員に、時間が余っているときに練習を勧めたら、パワハラだと告発された自衛官がいるくらいだからね」

 と、嘆くのである。さらに別の自衛官も心配する。

「災害が増えている今、『災害派遣をやりたい』と言って入ってくれる人も多いんですが、もちろん自衛隊の仕事はそれだけではありません。結局、『なんか違う』と辞めていく人も結構いるくらいですからね。あんな動画で、給料がいいとか、残業がないとか、楽なイメージで人を集めても、長続きするのかどうか……。『思っていたのと違う!』ってすぐに辞められちゃうのが一番困ります」

 その昔、バブル期の売り手市場にあって、重化学工業もイメージアップを図るべく様々なCMを打ち出したことがあった。とある大手製鉄会社は女優を起用して「“やわらか頭”してます」なるキャッチコピーで新卒者に訴えた。それを真に受けて入社した新社員、「やわらか頭じゃない」と文句を言おうものなら、先輩からのひと言で一蹴されたとか。

「バカ言ってんじゃねえよ、俺たちは鉄、作ってんだ!」

 イメージ戦略もほどほどに。

週刊新潮WEB取材班

2019年7月21日掲載

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