東京五輪チケットのネット販売が「高齢者に優しくない理由」 組織委がまさかの回答

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“会議は踊る”

「ことアクセスに関しては、見積もりの甘さにすべて帰結する話だと思いますね」

 と言うのは、ITジャーナリストの井上トシユキ氏である。

「それが証拠に、秋に予定されていた2次販売を『先着順』にしようとしていたじゃないですか」

 今回の結果を見れば、先着順で行った場合、よりアクセスが殺到し、サーバーがダウンすることは火を見るより明らか。この騒動を受け、組織委員会はそれを止め、第1次と同じように「抽選」とすることを発表した。しかし、

「そんなことはちょっとネットを齧(かじ)ったことがある人であれば誰でもわかりますよ。1~2日ほど前からそのサイトに向けて1秒間に1万回くらいのアクセス要求が出来るソフトウェアが開発され、今度はそれを“売ります”という輩が現れる。その後はその詐欺まで出現して……。バカバカしい悲劇のコメディが起こるだけです。年始に“あけおめ”メールが殺到することで、毎年携帯が繋がりにくくなるじゃないですか。そういうことすら知らない人が組織委員会にいるということですよね」(同)

 と手厳しい。

 もっとも、この辺、組織委員会に聞くと、

「十分な措置を取っていなかったのは反省すべき点だと思っています。ただ、我々も限られた予算や時間の中でシステムを作っており、皆様にのびのびとチケットを選んでいただけるようなものを作るのが難しい。電話認証についても、同一人物に複数のIDを作らせないようにするための抑止策のひとつとして採用しました。ある程度の効果はあったのですが、もう少し長く販売期間をもうければスムーズに行けたのかな、と」

 また、高齢者が置いてけぼり、との点については、

「ネットに限ったのは、住んでいる地域などによって不公平にならないようにするためです。ネットが苦手な方は、これを機にお子さんに教えてもらうなどして家族間のコミュニケーションに繋げていただければ」

 と人を食ったような回答なのだ。

「組織委員会がうまく機能していない印象は受けますね」

 とは、先の吹浦氏。

「64年大会の時は、まさにオールジャパンという感じで、さまざまな“プロ”が入り、寝食を忘れて仕事に取り組んでいた。ただ、今回は都や広告代理店、スポンサー企業などの“混成部隊”の上に、いろいろな組織の代表者が集まっているせいか、“会議は踊る”で、どうも機動的でない。チケットの件も、内外のプロに意見を聞いて、日本で最高の知恵を絞れば良かったんだと思いますが……」

 民間も含めた知恵を発揮すれば、確かにもっと幅広い層がスムーズにアクセス出来たとの印象はぬぐえない。ルールや手続き重視で実態に即した仕事をしないのなら、まさに“お役所仕事”の典型と言えるのである。

「パソコンやスマホを使えない人は入口にすら立てない。デジタル弱者に対しての配慮が圧倒的に足りませんよね。組織委員会のトップは80を超えた森喜朗さんなのに……」(ITジャーナリストの三上洋氏)

 なるほど、確かに「IT革命」を「イット革命」と呼んだ人だから、もうちょっと意見を聞いてみたら良かったのだ。

 組織委員会はこの夏と秋にも追加チケットを販売する見通し。とはいえ、ウンザリした層が戻ることはないハズで、

「爺さん婆さんは、むしろ熱中症になる危険が減ってラッキーと思えばいいんです」

 とは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏。

 さてこれからネットでも学びますか、それとも……。

 ガラケー片手に右往左往。高齢者にとっては、悲哀を味わうトホホな日々だったというのは間違いない。

週刊新潮 2019年7月18日号掲載

特集「高齢者は溜め息ばかりという『東京五輪チケット』の『お役所仕事』と『セブンペイ』騒動」より

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