東京五輪チケットのネット販売が「高齢者に優しくない理由」 組織委がまさかの回答

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「いや、やっぱりサッカーは見に行きたいと思っているんだけどね……」

 と溜め息をつくのは、元サッカー日本代表の釜本邦茂氏である。

 それはそうだろう。御年75歳の氏は、言わずと知れたメキシコ五輪「奇跡の銅メダル」の立役者。何があっても後輩たちの雄姿は目に焼き付けたかったはずだ。

 しかし、今回の東京五輪のチケット販売には申し込みすらしなかった。なぜか。

「仕組みが複雑すぎてね。新しい仕組みでパソコンだのスマホだのと言われたって、私なんかわからんもんね。何でもネットで、というのはそれが文明だから仕方ないけど、やっぱり年寄りにはもう付いていけないね……」

 もう一人、今回の東京大会組織委員会・国際局アドバイザーの吹浦忠正氏は、御年78歳。1964年の東京五輪にもスタッフとして携わった“重鎮”である。

「私も今回は申し込みませんでしたよ」

 と吹浦氏が言う。

「先日、同窓会があったんです。その席でみんな“チケット、何とかならないか”と私に聞くんですよ。どうにもならないに決まってますが、何で?と聞くと、“あんな複雑なのはダメ”と一様に言うんです。行列なら何時間でも並ぶけど、ネットで申し込むのはムリだと言っていました」

 健康寿命が延び続けるこの国にとって、70代は働き盛りとは言えないものの、まだまだ「現役」の一端であるはず。それでも、ネットによる販売という、その一点をもって、事実上、排除されてしまうだけに、溜め息が止まらないのも当然と言えるのである。

 7月2日に購入手続きが締め切られた、東京五輪チケット販売の第1次抽選。申し込んだ方は身をもっておわかりだろうし、さんざん報道もされたが、とにかく手続きは煩雑の極み。改めて振り返ると、

「批判が殺到したのはまずはアクセスの問題でした」

 と言うのは、全国紙の五輪担当デスクである。

「購入するにはまず自分のIDを取らなくてはいけません。でも、チケット発売初日や最終日はID取得画面に行くだけで3時間待ちなんてことも。ようやく画面に辿りつけたとしても、パスワードには『9文字以上で英大文字小文字と数字がすべて含まれるもの』という条件が。この時点で放り投げてしまったお年寄りの方も少なくなかったでしょうね」

 IDを取っても、いざ競技や座席を選択する段になると、「セッション」「カスケードサービス」なんて横文字が並ぶ。頭が痛くなることばかりだった。

「チケットを選んだ後も安心は出来ません。本人認証のために、指定された番号に電話をしないといけないのですが、それも『120秒以内に』と条件が付いた。慣れない人にとっては十分プレッシャーになりますよね。しかも、最終日などはアクセスが殺到していたせいか、かけても繋がらないことすらあった。オマケに、一度選んだチケットを変更したい場合は、すべてを取り消してから申し込みをやり直さなくてはならない。これは酷だな、と思いましたね」

 要は忍耐強い「IT強者」にして初めてクリアできる代物だったというワケだ。

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