大行列「恐竜博2019」展示が世界的大ニュースに!「むかわ竜」は新種!?
オープン直後に50分待ち
「恐竜博2019」が13日、上野の国立科学博物館で始まった。オープン前から列ができ、開幕直後に「入場50分待ち」とアナウンスされる混雑ぶりで、翌日は一時「100分待ち」にまでなった。
それほど人々を惹きつけるのは、メイン展示の全身化石2体にほかならない。
ひとつはモンゴルで発掘された全長11メートルの“幻の恐竜”デイノケイルス。もうひとつが北海道むかわ町で発掘された全長8メートルの「むかわ竜」だ。
この「むかわ竜」が、これまで発掘、命名されたどの恐竜とも異なる、つまり「新種」である可能性が出てきたのだ。日本で発見された新種となれば大ニュースである。
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そもそも「むかわ竜」は、様々な幸運が重なった末の大発見だったことをご存知だろうか。
最初に尻尾部分の化石が発見されたのは2003年。「恐竜ではない」として長らく博物館の収蔵庫にしまわれていたが、2011年に学芸大学の佐藤たまき准教授によって「発見」される。連絡を受けた北海道大学の小林快次教授が恐竜であると鑑定、発掘が始まった。
尻尾から胴体、そして頭まで「まるごと1体分」が奇跡的に揃って見つかったことが2014年発表され、むかわ町によって「むかわ竜」の通称がつけられた。そして2018年9月、見つかった全身骨格を並べたお披露が行われる。
全体の8割が揃った「日本一の恐竜化石」が現代に甦ったのだ。
まだドラマは終わっていない
「むかわ竜」発掘の陣頭指揮をとった小林は、発掘地でよく化石を見つけることから、「ファルコン・アイ(ハヤブサの眼)」の異名で知られる恐竜学者だ。だが小林には見つけることとは別の“特殊能力”がある。脳内での3Dジグソーパズルだ。
目の前にある骨ひとつが、どの恐竜のどの骨であるかを、たちまち特定してしまう。例えば、カナダの発掘調査でのことを、小林は著書『恐竜まみれ――発掘現場は今日も命がけ』にこう記している。
「バラバラになった骨を地面で組み上げていく、3次元のジグソーパズル。夢中になって、時間がたつのを忘れてしまう。『あの骨だろう』と想像し、『だったらここに出っ張りがあるはず』と考えながら、置いていく。
少し離れたところに、アンキロサウルスの仲間の皮骨らしきものが落ちている。バラバラになっているのを組み立てると、なんだか三角錐の形をしている。出来上がった骨を手にして考える。どうも皮骨にしては、違和感がある。
『何だこりゃ?』
骨をくるくる回転して、自分の『データベース』に入っている骨と照らし合わせる。
『あ!』
その三角錐の骨がある角度になった時に、何なのかがわかった。アンキロサウルスの仲間の骨ではなく、角竜類のくちばし(前上顎骨(ぜんじょうがくこつ)か前歯骨(ぜんしこつ))の部分だった。この瞬間がたまらない。スッキリ! の瞬間だ」
この類まれな能力で、小林は「むかわ竜」の正体をも正確に見抜いていた。
「こうして町や地域が盛り上がっていく中で、私はある思いを抱いていた。
むかわ竜には、どのハドロサウルス科の仲間にも見られない特徴がある」
新種の可能性――。
「むかわ竜」をめぐるドラマは、まだ終わっていなかったのだ。
新種であることが濃厚
小林の推理は、確信に変わっていった。
「『むかわ竜』固有の特徴は体全体に見られており、まずわかりやすいもので、前脚が異常に細い。マニアックなものとしては、胴の背骨の骨(胴椎骨(どうついこつ))の上に伸びる骨(神経棘(しんけいきょく))が本来なら後ろに傾いているが、むかわ竜の神経棘は前傾しているのだ。クリーニングした骨を見たときには本当に驚いた。
見たことがない――。このとき私は、むかわ竜が新しい恐竜であることを確信した。また、ハドロサウルスの仲間の中には、骨でできているトサカで頭を飾っているものがいる。むかわ竜には、そのトサカの骨が残されていないものの、その痕跡が見られる。むかわ竜も頭に『トサカ』という飾りをつけていたかもしれないことまでわかってきた」
だが恐竜学者が「新種だ」などと軽々しく言うわけにはいかない。2018年9月のお披露目の後、小林は徹底的に研究に打ち込み、学術誌に論文を投稿した。
そしてついに今年6月、「新種であることが濃厚」と記者発表を行ったのだ。
研究論文が認められ、学術誌に掲載されるとどうなるか。「むかわ竜」は新たな正式名称(学名)で世界に知られることになる。日本発の新種恐竜としては、史上8例目となる快挙だ。
小林は、一体どんな名前を「日本一の恐竜化石」につけたのか。それが明らかになる日は、もうすぐそこかもしれない。