10秒で産み逃げ! 赤の他人に子育てをさせるカッコウの巧みな育児寄生術【えげつない寄生生物】
ゴキブリを奴隷のように支配したり、泳げないカマキリを入水自殺させたり、アリの脳を支配し最適な場所に誘って殺したり――、あなたはそんな恐ろしい生物をご存じだろうか。「寄生生物」と呼ばれる彼らが、ある時は自分より大きな宿主を手玉に取り翻弄して時には死に至らしめ、またある時は相手を洗脳して自在に操る様は、まさに「えげつない!」。そんな寄生者たちの生存戦略に、昆虫・微生物の研究者である成田聡子氏が迫るシリーズ「えげつない寄生生物」。第10回は「カッコウの托卵戦略・前編」です。
第1回で紹介したエメラルドゴキブリバチのほかにもある種のアリやスズメバチなど、自分では子育てをしない昆虫がいますが、それは昆虫だけではありません。子育てというのは、親にとっては膨大な時間と労力を必要とするものであり、これを他人の労働によっておこなうことは托卵(たくらん)または育児寄生(brood parasitism)と呼ばれ、寄生という形態の一種といわれています。
この托卵という寄生形態で、最も高度にその習性を発達させているのはカッコウです。カッコウという鳥はカッコウ目カッコウ科で体長は35センチほどです。ユーラシア大陸とアフリカで広く繁殖し、日本には夏鳥として5月ごろ飛来します。繁殖期にオスは「カッコウ! カッコウ!」と特徴的な鳴き方をするため姿が見えずとも認識しやすく、日本人にとってはなじみ深い鳥の一種です。そのカッコウが自分の卵を託すのは体長が20センチほどのオオヨシキリなどのカッコウよりかなり小さい鳥です。ここでは、赤の他人(他鳥)に自分の子どもを育てさせるカッコウの巧みな騙しのテクニックをご紹介したいと思います。
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