【闇営業】「見た目」でヤクザと判断するのは無理! 暴力団博士の解説
一段落してきた感のある、吉本興業の芸人らによるいわゆる「闇営業」問題。この報道で頻繁に耳にした「反社会的勢力」だが、彼らと仮に出会うことがあった場合、一般人が事前に察知したり、あるいは見て「おかしい」と気付くことはできるのだろうか。世の中にはファッションでタトゥー入れている善良な人は数多くいる。パンチパーマだって本来、その手の人の専売特許ではない。一方で見るからに善人そうな人、真面目なサラリーマン風の人が実は半グレということだってある。知らないでつきあったら、足をすくわれることにもなりかねない。
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数多くの暴力団関係者や暴力団離脱者からの聞き取りをして、「暴力団博士」の異名を持つ社会学者の廣末登氏(久留米大学非常勤講師)は、こう解説する。
「20年前なら、暴力団関係者は見た目で判断できたでしょうね。代紋をジャケットにつけていたりと、見るからにヤクザだとわかるように振る舞っていましたから。しかし、暴力団排除条例が施行されてからは、どんどん彼らも普通の人に紛れるようになっていきました。見た目もごく普通です。
かなりの人数に会ってきた私でも、ちょっと会って話したくらいでは、区別なんかできません。ましてや、芸人さんたちにすぐ気付けというのは無理がある気もします。
知り合いの元暴力団員から聞いたこんな話があります。彼はカタギになるために組をやめて、会社の営業マンになった。一所懸命に働いていたら、ある時、邪魔な商売敵を『さらってこい』と命じられた。それを拒否したらボコボコにされて、そこでようやく『ここも暴力団関係だった!』と気づいた、というのです。会社はカモフラージュしていたから、就職時にはわからなかったそうです。
暴力団に限りません。オレオレ詐欺集団のメンバーだって、多くは見た目は普通です。特に出し子(預金を引き出す役)なんかは、本当に普通の子がやっていることが多い。
見た目で気付け、というのはちょっと無理があるのではないでしょうか。まあ、そもそも気付いたとして毅然とした態度を取るのもまた難しいでしょうし……」
多くの離脱者からの聞き取りをしてきた廣末氏が懸念しているのは、仮に知らなかったとはいえ反社会的勢力と交際した場合にどの程度の制裁が課されるべきか、という問題だ。目下、数多くの芸人が「無期限謹慎」などの厳しい処分を受けている。交際すること自体が非常識だ、というのが一種の社会的コンセンサスになっているのは事実だろう。だから、昔のように「芸能と裏社会は切っても切れない関係」なんて言い分は通用しない。
しかし、それが社会の安定につながるのかは、長い目で見た場合、簡単な話ではない。
「正義感の強い方ほど、『そんなやつらはどうなっても知ったことか』と厳しい意見を述べるのかもしれません。暴力団排除条例などもそういう考えのもとに作られたため、暴力団を離脱してから5年は銀行口座新規開設ができない、インフラ(水道・電気など)を除く契約行為(不動産の賃貸契約など)ができない、生命保険他に加入できない、などの制約が課せられることになっています」
廣末氏の著作『ヤクザの幹部をやめて、うどん店はじめました。――極道歴30年中本サンのカタギ修行奮闘記』は、九州で組幹部までつとめた男性が、カタギを志して地元でうどん店を開業するまでの苦闘を描いたドキュメントだ。組を抜けた直後には、口座開設も賃貸契約もままならなかったものの、地域の人々に支えられて更生を果たし、現在も店は繁盛しているという。これは一種の心温まるストーリーになっているが、もしも地元の人たちの温かい支援が無ければ、どうなっていただろう。
もちろん、ある程度の壁は当然の報いだ、と厳しい見方も必要だろう。が、最近では、警察も、離脱者にあまりに高いハードルを課すことは逆効果になりかねない、という視点を持つようになってきたのだという。
「結局、追い詰めすぎると、カタギには戻らず、また悪の道に戻る。また、カモフラージュが巧みになっていくので、さきほどもお話ししたように、一般人に紛れてしまう。それが長期的に見た場合に、本当に社会のためになるのかは冷静に考えたほうがいいのではないでしょうか。
2010年~2017年度で、警察の支援で暴力団を離脱したのが4170人で、そのうち、把握されている就労者は2.6%ほどです。『ざまあみろ、当然の報いだ』と思われるかもしれませんが、残りの人が何をしているのか。あるいはカタギに戻ろうとして挫折したとき、どこへ向かうのか。そこを見る必要があります。暴力団員とそこからもはぐれたアウトローとどちらが危険なのか、ということです。
これは芸能界の話にも通じるかもしれません。薬物に手を出した芸能人、あるいは今回の芸人たちが、一定のペナルティを課されるのは仕方ないでしょう。でも、廃業するまでに追い詰めることがいいのかは議論の余地があるのではないでしょうか」
手弁当で、犯罪少年や暴力団離脱者の更生に尽力している「暴力団博士」の言葉には耳を傾ける価値があるのではないか。