日本の「カワウソ」ブームに警鐘を鳴らす英国人 1匹100万円で売買の裏に反社会勢力?
製作の狙いは
視聴者からは〈映像を見ながら吐いてしまった〉〈いつになったら人類は野生動物に介入することをやめるんだ〉といった意見が寄せられたこの動画。その狙いについて、ディレクターのグランディ氏にインタビューを行った。
――この番組を制作するきっかけはなんでしょうか? なぜコツメカワウソをテーマに?
グランディ氏:環境問題や野生動物保護に関心のある映像作家らとチームを組んで、英国発のキャンペーンを昨年から始動しています。「野生動物はペットではない!」がスローガンです。最初にNGO「World~」が、ペットとして流通している野生動物のリストを作成しました。真っ先に挙がったのが「コツメカワウソ」ということで、第1弾のテーマとなったのです。
来年には第2弾のキャンペーンを展開する予定です。そちらでは高級皮製品の素材となるニシキヘビの密猟、アフリカの巨大オウムを取り上げるつもりです。
――マレーシア、インドネシア、タイでの取材の模様は?
グランディ氏:ペットなどでのカワウソ市場が大きいことが調査で明らかになりました。インドネシアではFacebookで日々、カワウソの売買情報が交換されていたほど。タイでは密猟は禁止されているにもかかわらず、多くの赤ちゃんカワウソが簡単に手に入ります。と同時に、多数のカワウソが栄養失調、低体重の状態で捨てられているのも報告されています。
――日本の取材はどうでしたか?
グランディ氏:興味深かった。ペットとしてのイメージ宣伝がすごく上手です。違法な暗い影がある、ということを一切匂わせず、カワウソの存在が広まっていますね。私が「カワウソ」と日本語で検索すると「可愛い」「おちゃめ」「人懐っこい」といった、前向きな用語しか引っかかりませんでした。
カワウソのカフェがあるのも日本だけです。東京、京都など日本国内の8軒ほどを取材しました。また、横浜のエキゾチック・ペットショップにも足を運びました。2匹のカワウソをペットとして買っている、Instagramで有名な女性にも話を伺いました。日本ではペットとしてカワウソを飼うことは合法のようですね。
そこには、巨大なビジネスが存在しています。現地マレーシアでは1万~1万5000円で取引されるカワウソが、日本では100万円近い価格で売られている。日本のカワウソを調べている覆面調査員に聞き取りしましたが、カワウソの売買を巡って、暴力団など反社会的組織も関わっていることもあるそうです。
――どうやって、コツメカワウソは日本に密輸されるのか?
グランディ氏:ひとつ気になった点があります。東南アジアから日本に向けてカワウソを持ち出す際に、取引先を「動物園」とすれば、簡単かつ合法的にカワウソを“輸出”できるという抜け道があります。そこに盲点があるのかと。「動物園」と偽って、野生カワウソを個人、ペットショップ、仲介人らが輸入している疑惑が拭えません。インドネシア滞在中、密輸者を隠しカメラで撮影しました。不法に捕まえたカワウソを、日本に輸出している人物です。
――コツメカワウソはペットとして人気です。飼育することについて、どう思いますか?
グランディ氏:カワウソには色々な種類がいるが、中でも日本で人気のコツメカワウソは本当に愛らしい。人を魅了するカリスマ性もある。ペットとして飼いたがる気持ちも分かる。猫とちょうど同じ大きさですし。ただ、1日17キロを川の中で泳ぐ生き物です。狭いアパートで飼うことは賛同できません。またカワウソは、単独ではなく家族単位で死ぬまで過ごす性質があります。これも飼育下で再現するのは不可能でしょう。
取材の中でわかったことがあります。カワウソを含めペット化された野生動物のうち、じつに80%は悲惨な環境下で飼育され、死んでゆきます。私は、野生動物をペットとして飼うことには反対です。
――英国人はコツメカワウソを飼わないのですか?
グランディ氏:英国ではカワウソをペットとして誰も飼いたがりません。ペットにしている人なんて、聞いたことがありません。扱うペットショップもない。家で飼うことはとても難しいですしね。とにかく匂いがきつい……スカンクみたいです。自宅が動物園になってしまいます。それに、見た目の可愛らしさと違って、本性はタスマニア・デビルみたい。ソファを噛み砕くし、部屋中をずっと駆けずり回っている。野生動物ですからね。
英国の文化では、野生動物をペットとして飼うことを奨励しません。それは昔、大英帝国時代の教訓かもしれません。100年前、英国は、世界中の動物を捕獲するなど、酷い動物園状態でしたから(笑)。
――日本人へのメッセージを。
グランディ氏:今回のキャンペーンは、決して日本叩きや日本人を激しく非難する意図はありません。伝えたいことは「カワウソをペットとして買う前に、改めて考え直してほしい」ということ。絶滅の状況に追い込まれているカワウソの現状に、高い意識を持ってもらいたいです。
日本を名指しで非難することはしたくない。しかし日本人は、その事実を見ないといけない。どのようにして取引されているのか。インドネシアなどでは、野生に生息する両親を銃で撃ち殺して、赤ちゃんを捕獲する事件などが起きています。
日本でカワウソ取引に関する新しい法律が施行されることを願いします。また、カワウソを買わないように、周囲に忠告することも大きな一歩だと。英国では、野生動物の取引に関しては比較的厳しい法律が定められています。そんな背景もあって、野生動物をペットとして飼いたい需要も大きくはありませんから。
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