日本に追い詰められた韓国 米国に泣きつくも「中国と手を切れ」と一喝
「インド太平洋」から逃げ回る韓国
――韓国の外交部は「インド太平洋戦略」には触れなかったのですか?
鈴置: 外交部の発表(7月11日、韓国語)では完全に無視しました。韓米両国は朝鮮半島の非核化で合意し、韓国が「世界の貿易を破壊する日本」を非難した、とあるだけです。
もし、発表文に「インド太平洋戦略」などの単語を入れれば、たちどころに北京からお叱りを受けるからでしょう。
米国務省も韓国が誤魔化すことは予想していたと思われます。11日の会見で、オルタガス報道官は「参考資料」をなぞる形でこの電話協議を説明しましたが、「インド太平洋」にもちゃんと言及しています。
実は「インド太平洋戦略」への韓国への参加は、6月30日の米韓首脳会談で合意済みです。米国務省が7月2日に発表した「ファクト・シート」の前文に「強固な米韓同盟がインド太平洋の平和と安全のリンチ・ピン(核心軸)であることを両首脳は再確認した」と入っています。
前文には「北朝鮮の非核化」は入っておらず、両首脳の具体的な合意として示された案件はこれだけです。米国がいかに「インド太平洋戦略」への韓国の参加を重視しているかが分かります。
本文でも「Deepening Cooperation in the Indo-Pacific」(インド太平洋での協力強化)という項目が立てられていて、以下のように謳われています。
・トランプ(Donald Trump)大統領と文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、インド太平洋における優れた統治と透明性、法による支配、主権、法に基づく秩序、および市場経済原理を共同で推進することを約束した。
「法による支配」「法に基づく秩序」などは、米国が中国を批判し排除する際の常套句です。当然のように、韓国政府は米韓首脳会談に関する発表でも「インド太平洋」に一切言及しませんでした。
米中の間で板挟み
――韓国は今後、米中どちらにつくのでしょうか。
鈴置: そこが焦点です。韓国がだんまりを決め込んでも、米国側の発表資料に「インド太平洋戦略に韓国も参加することで合意した」と書かれてしまったのですから。
韓国でもこれに注目した人がいました。同じ日の板門店での米朝首脳会談の方に注目が集まりましたが、見る人は見ていました。
洪圭徳(ホン・ギュドク)淑明女子大学国際政策研究院長が中央日報に「米国のインド太平洋戦略と韓国の新南方外交…接点見つけなくては」(7月10日、日本語版)を寄稿しました。洪圭徳・院長は韓国の立場を次のように整理したのです。要約しつつ引用します。
・韓国は中国との衝突を懸念し(インド太平洋戦略への)積極的な支持や参加をためらってきた。文在寅政権は米国が韓国を見捨てる可能性より、米国と中国の激突に韓国が巻き込まれる可能性に大きな恐れを感じている。
・その結果が及ぼす影響は深刻だ。米国と日本で、新アチソンライン――朝鮮半島の外に米国の防衛線を後退させよう――との主張が生まれている。韓国の対中傾斜論もこれに力を加えている。
要は、中国に怒られまいと米国の申し出を無視していると、見捨てられるぞ、との警告です。典型的な親米保守の意見です。
堪忍袋の緒が切れた米国
――「板挟み」になった文在寅政権はどうするのでしょうか。
鈴置: とりあえずは米国との合意などなかったように振る舞うでしょう。これまでも、文在寅大統領はトランプ大統領との約束を、結んではホゴにしてきました。韓国に堂々と約束を破られるのは日本だけではないのです。
2017年11月7日、ソウルで開いた米韓首脳会談でもそうでした。翌8日に発表された共同発表文(英文)には「自由で開かれたインド太平洋地域に貢献する米韓同盟の推進をトランプ大統領は強調した」と記されました。
しかし、1日後の9日には青瓦台(大統領府)の金顕哲(キム・ヒョンチョル)経済補佐官が会見で「日本が構築しようとする『インド太平洋ライン』に我々が編入される必要はない」と述べたのです。
外交的な慣例では、共同発表文の内容は双方の合意、最低限でも暗黙の合意があったと見なされるそうです。それを翌日になって「自分は同意していない」と言い出すのはおかしいと、韓国紙も批判しました。
韓国がそんな国だとは米国もよく知っています。だから今回、韓国が「日本にいじめられた」と泣きこんできたら「インド太平洋」を持ち出して「約束をホゴにするような国の面倒は見ないぞ」とクギを刺したのでしょう。ムシがいい韓国の態度に、米国も堪忍袋の緒が切れたのです。
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