広島「緒方監督」、リーグ3連覇しても“名将”とは呼ばれない本当の理由

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「勝ってオールスター休みに入りたかったけどね」

 引き分けを挟んで、20年ぶりの11連敗で前半戦を終えた広島カープの緒方孝市監督の試合後のコメントだ。そのあとに続けたのが、「1回また体、そして気分的にもリフレッシュして、気持ちを切り替えて臨みたい」。この「切り替えて」という言葉、緒方監督の常套句になっている。

 前半戦を38勝43敗3分の4位で終えた広島。首位を快走する巨人とのゲーム差は11ゲームまで広がった。オールスター前には最下位の東京ヤクルトに3連敗の後、応援歌の「お前問題」で揺れていた5位中日にも3連敗を喫してその差は0.5ゲームと、リーグ4連覇どころかクライマックスシリーズ(CS)進出も危うい状況だ。

 中日の応援歌問題は、与田剛監督のコメントから起こったが、広島でも緒方監督の取材対応が密かに問題になっている。地元マスコミ関係者が、あきれたような表情でこう話す。

「マツダスタジアムでの試合後には、勝敗に関わらず監督の囲み会見をすることが通例になっていますが、最近は緒方監督のコメントがあまりにも少ない。特に負けた試合は、だいたい記者の質問を遮るように自分の言いたいことを喋り、あとは質問に関わらず『切り替えてまた明日、頑張る』か『ファンに申し訳ない』。連敗が続くようになってからは『いい采配ができなかった』も多用するようになりましたね」

 今季はこれまでに二度の会見拒否もあった。会見場には監督付広報の松本高明広報だけが姿を見せ、代理でコメントを読み上げることになるが、その要旨は二度とも「切り替えてやるだけ」だった。

 質問する側の記者も、もはや諦めの境地に達している。

「質問はだいたい監督に近いスポーツ紙の記者が行うのですが、最初の質問から2つ、3つと続くことはほとんどありません。監督自ら話を切り上げる形がほとんどで、質問を受け付けない。すぐに帰りたいのか、半身の姿勢で話をすることもあるほどです」(前述の地元マスコミ関係者)

 ゲームのポイントになる采配や選手起用など、その意図を聞くことができない。惨敗した交流戦から、その後の連敗中は猫の目のようにオーダーも変わったが、それについての監督のコメントは皆無に等しかった。

「記者も『どうせ答えないから』と、質問するのを諦めてしまっている感があります。試合後の会見は監督が言いたいことを言う場ではなく、我々やファンも含めて、周囲で見ている人たちの疑問をぶつける場で、監督もそれに答える義務があるはずなのですが」

 試合後だけではない。近年では試合前の練習中に、ベンチで報道陣が監督を囲んで雑談したり、球団によっては広報の仕切りでミニ会見のような場を設けることが増えているが、広島ではそれは一切やらない。マツダスタジアムでの取材中、ビジターチームの練習中のベンチで報道陣に対応する監督を見て「これが普通なんだよね」と、広島担当の記者は醒めた目で見ている。

 古参の地元マスコミ関係者は言う。

「広島でも、かつてマーティー・ブラウン監督は、外野の芝生に報道陣を誘って『みんなで輪になって座って、なんでも話し合おう』と、記者とコミュニケーションをとっていた。その前の山本浩二監督でも、練習中には報道陣と談笑しとったけどね」

 報道陣との関係が希薄になったのは、野村謙二郎前監督からだという。野村前監督の元でコーチを務めた緒方監督は、前任者のやり方を踏襲したのかもしれないが、チームが勝っている時はともかく、負け始めるとそこからの風当たりは必要以上に強いものになる。

 プロ野球の歴史上、「名将」と呼ばれた監督は数多いが、その多くは自らの「言葉」を持っていた。ID野球でヤクルト黄金時代を築いた野村克也監督は、ボヤキという独特の表現で報道陣にも語りかけ、試合後のコメントでも数々の名言を残した。カープでもリーグ優勝4回、日本一3回を達成した古葉竹識監督は「耐えて勝つ」という言葉で、自らの姿勢を示した。

 球団史上初のリーグ3連覇を果たしながら、緒方監督を「名将」と評する声がほとんど聞かれないのは、日本シリーズで勝てないことが一番の理由だろう。ただ、かつては阪急、近鉄で8度のリーグ優勝を果たしながら、一度も日本一になれなかった西本幸雄監督や、中日や阪神、楽天でリーグ優勝4回の実績も、日本一は最後の楽天での一度だけという星野仙一監督など、日本シリーズで勝てなくとも「名将」の称号を受けた監督も少なくない。現役時代から多くを語らないタイプで、指導者になった後もそのスタイルを続けている緒方監督は、その信条や姿勢が、他人に伝わりにくいことが、評価が上がらない原因なのかもしれない。

 最近、広島のファンの間でしばしば聞かれるのが、

「緒方はなんにもしとらん」
「新井と黒田、選手が頑張っとるだけ」
「(前監督の)野村が育てた選手のおかげよ」

 と、監督を評価する声はほとんどない。逆に言えば、監督の真意が、伝えるべきところで伝えることができていない、ということでもあるのかもしれない。

 緒方監督の普段の姿勢を見ていると、ファンやマスコミはともかく、選手との間でも、十分なコミュニケーションが取れていないのではないかという心配も出てくる。7月4日の東京ヤクルト戦では、2015年8月以来となる菊池涼介を1番に起用したが、リーグ3連覇中は2番打者として献身的な役割を果たしたつなぎ役が、大振りの目立つフライアウト3つで4打数0安打と精彩を欠いた。

 特に今季は、選手と首脳陣の間の緩衝役となっていた新井貴浩の引退により、チームの雰囲気も昨年までとは大きく異なっている。主力にFA権取得間近の選手が多く、新井が「家族」と評したチームに、少しずつだが、綻びのようなものが感じられるようになっている。

 前半戦最終戦の試合前、集まった報道陣の前で、緒方監督が普段は行わない会見を行った。地元テレビ局から会見の情報が流れ、ネット上では「不振の責任を取っての辞任発表か」と騒然となったが、行われたのは慣例となっている前半戦の総括だった。

「本当の勝負は夏場。自分たちの野球をしっかりやって、ひとつ流れが変われば、いい方向にチームを持っていけると思うので、しっかり目標を持って戦っていきたい」と、早口でまくし立てるように話した緒方監督。

 その後に行われた試合では、投手戦の末に押し出し四球2つで逆転負け。流れは変わらず、連敗を止めることはできなかったが、オールスター休みで「しっかり切り替えて」もらって、後半戦の反攻にファンは期待するのみだ。

週刊新潮WEB取材班

2019年7月15日掲載

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