ジャニー喜多川氏は日本一優秀な採用担当者だった ジャニーズを支えた「育てる力」

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未来を見通す力があった

 7月9日、ジャニー喜多川・ジャニーズ事務所社長の逝去を受け、メディアは一斉にその偉業を讃えるコメントやエピソードを伝えた。

 多くの番組、報道で賞賛されていた氏の能力の一つが、才能を見抜く力だ。なぜ小学生や中学生の時点で、「この子は伸びる」とわかるのか。月に1万通近く届くことすらあったと言われる履歴書から、どうやってダイヤの原石を見抜けるのか。 

 WEBマガジン「チェリー」編集長の霜田明寛氏は、新著『ジャニーズは努力が9割』(8月1日発売)の第2部として「ジャニー喜多川論 育てる力」と題した論考を綴っている。

「企画の構想は約10年前から、もとになる連載は昨年1月から始めていて、刊行前の詰めの作業中に訃報が届いてショックを受けています」と語る霜田氏、実は15年前にジャニーズJr.のオーディションに参加した過去を持ち、10年前に日本で初めて「ジャニヲタ男子」としてメディアに紹介されたこともあるという。新著は、過去のジャニーズ関連の書籍、本人たちのインタビュー記事はもちろんのこと、テレビやラジオでの膨大な発言録をもとにした、「ジャニーズ愛」が炸裂したジャニーズ論である。

 その霜田氏は、ジャニー氏のことを「日本一優秀な採用担当者」だと評す。

 ジャニー氏のどこが傑出していたのか?

 その秘密はどこにあるのか?

 長年のウオッチャーならではの視点による「ジャニー喜多川論」を見てみよう(引用は『ジャニーズは努力が9割』より。文中敬称略)。

「V6の岡田准一が、オーディションで初めてテレビに出た時は、文字通りほっぺの赤い男の子でしたし、KAT-TUNの上田竜也は、ジュニアの時期には、ファンからすらも『サル』というあだ名をつけられていた……といった“スタート時点”の彼らは、その時点ではスターとは形容しづらい存在でした。

 しかし、ジャニー喜多川は、そんな彼らを選び、スターにしていきました。いわばジャニー喜多川は、『日本一優秀な採用担当者』でもあるのです。

 その最大の理由は、“未来を見通すことができるから”。超能力のような表現ですが、芸能界でも一般企業でも、採用する側に最も必要な能力は、この未来を見通す能力である、というところは同じです。

 なぜ未来を見通す能力が必要なのか。企業の採用担当者などがよく語る、人を選ぶ難しさは、その人物が“今どうなのか”だけではなく、“今後どうなるのか”を見抜かねばならない点です。

 現時点のその人との面接で、5年後、10年後のその人を予想して採用することが求められます。

『5年後、思ったほど成長しなかった』とか、『もっと伸びる人物だと思ってたけど、そうでもなかった』なんて、予想が外れることはよくある話です。

 もちろん他人の未来の姿なんて、そう簡単に予想できるものではありません。さらにジャニーズの場合は、そこに、『成長期の男子のルックス』という極めて不確定な要素が加わります。しかし、ジャニー喜多川の目は確か。山下智久は彼がこう言っているのを聞いたことがあるといいます。

『僕には20年後の顔が見えるんだよ』(※1)」

ドラッカーとの類似性

 もちろん、ここで言う「顔」は単なるルックスではなく、象徴的な意味で使った言葉だろう。では、どこを見れば「20年後の顔」が見えるというのだろう。

「ジュニアのオーディションでは、ダンス審査があるので、ダンスの技術を見ていると思いきや、どうやらそうではないようです。ジャニー喜多川はジュニアの選抜基準を自身でこう語っています。

『踊りのうまい下手は関係ない。うまく踊れるなら、レッスンに出る必要がないでしょう。それよりも、人間性。やる気があって、人間的にすばらしければ、誰でもいいんです(※2)』

 天下のジャニーズ事務所の選抜基準が“やる気”と“人間的にすばらしい”だけで、『誰でもいい』とは驚きです。一般企業では、採用基準に『コミュニケーション能力が高く、創造性があり……』などと細かく条件をつけるところもある中で、これは一見、曖昧な基準にも思えます。しかし実は、こうしたジャニーの選抜基準と『経営の神様』と呼ばれるドラッカーの説く組織論は驚くほど一致するのです。

 ドラッカーはその著書『マネジメント』で、『人事に関わる決定は、真摯さこと唯一絶対の条件』といい、『真摯さを絶対視して初めてまともな組織といえる』とまで言っています。これはまさにジャニー喜多川の言う『人間的にすばらしい』と同じで、それがあれば『誰でもいい』というのも、真摯さの絶対視に他ならないでしょう。ちなみに、基本的には人をクビにしないことまでドラッカーと一緒です」

人間性をどう見抜くか

「重要なのは、人を見て態度を変えないこと。例えば、後にTOKIOのメンバーとなる松岡昌宏。オーディション当時11歳の彼は、ふてぶてしいほどにリラックスしていたといいます。しかし松岡は、他の子たちが目の前にいる大人がジャニー喜多川だと気づいた瞬間に、姿勢を正したりする中、態度を全く変えませんでした。それを、ジャニー喜多川は見逃さなかったのです。

『人を見て、態度を変えるような子は駄目なんです。どこにいても子供は自然じゃなきゃいけない』(※1)」。

 このように、まずはジュニアの選抜の段階で、やる気と人間性をジャッジしているのです」

 もちろん、ジュニアになることはスタートにすぎない。では、その先でジャニー氏は何を見ていたのか。それについては次回に譲ろう。

※1 TBS「A-Studio」(2019年4月5日放送)
※2 「Views」(1995年8月号)

デイリー新潮編集部

2019年7月14日掲載

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