高島忠夫さん夫妻の「老老介護」が社会に投じた一石

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「ありのままを世に」

「介護される高島さん、介護する寿美さん、ともに大スターですから、あの番組が世間に与えた衝撃は大きかったと思います」

 こう振り返るのは、女優の小山明子さん(84)だ。彼女自身、夫で映画監督の故・大島渚氏を17年間にわたって介護してきた。

「闘病の様子を見せることに抵抗もあったと思いますけれど、寿美さんは高島さんのありのままを世に伝えようとした。あれだけ幸せいっぱいの家庭でもこういうことが起こるんだなと、多くの方の教訓になったのではないでしょうか」(同)

 確かに同番組のインパクトは強烈で、画面に映し出された高島さんの姿に往年のスターの面影は全くなかった。ボサボサの髪に焦点の定まらない視線。震える手元におぼつかない足元……。それはかつて順風満帆だった家族の、ある意味で「醜い現実」だった。実際、当時は一部から批判を浴びた。その背景には、家庭内の「恥部」を外に見せるのはいかがなものかという“日本人らしい”感覚もあったに違いない。だが、こうした「恥の文化」が、超高齢化による介護問題から目を背けさせる事態を招いてきた面があるのではないか。

「それまで介護にはネガティブなイメージがありました。しかし、高島さんのような影響力のある芸能人がその様子を公開したことは、介護がポジティブに捉えられるひとつのきっかけになったと思います」

 とした上で、介護ジャーナリストの小山朝子氏が解説する。

「とはいえ、介護に関するマイナスイメージが完全に払拭されたわけではありません。実際、世間の目を気にして、介護サービスを提供する事業者の車が自宅の前に駐められることを嫌がり、少し離れたところに停車するよう指示する人もいる。しかし、困った時の頼り先は多いほうがよく、介護をオープンにすることで近所の方の手を借りられるケースもあります」

 高島さんが亡くなったことで、改めて介護議論が活発化する。そうなれば、黄泉(よみ)の高島さんもきっと「イエ~イ!」と親指を突き出すに違いない。

週刊新潮 2019年7月11日号掲載

ワイド特集「会議は踊る」より

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