サニブラウン圧勝 「周りの人はまったく気にしていませんので」桐生、小池も眼中にナシ
このたびの日本陸上選手権で、圧巻の走りを見せつけたサニブラウン。他方、桐生祥秀(23)、小池祐貴(24)ら、今年未だ10秒を切れない実力者たち……。レーン内外で、それぞれの人間ドラマが展開している。
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去る6月28日、陸上選手権100メートル決勝で優勝したサニブラウン・アブデル・ハキーム(20)が、1万4千余の観客やテレビ前にいる16・5%の視聴者を裏切ったものがあったとしたら、その圧勝ぶりだろう。
それというのも、放送したNHKでさえ、解説者が「決勝には実力者8人が揃った」と口火を切って、その群雄割拠ぶりを強調していたからだ。
10秒の壁を破ったパイオニア・桐生祥秀、進境著しい小池祐貴、2016年リオ五輪400メートルリレー銀メダリストのケンブリッジ飛鳥(26)……。解説者の声に実況アナは、「もう一人の実力者・山縣選手(亮太=27=)は肺の病のため、欠場ということになりました」と続ける。もっとも、現場を取材してきた記者の話に耳を傾けると、今回、サニブラウンが駆け抜けた福岡・博多の森陸上競技場の中央4レーンだけが、20年東京五輪のオリンピック・スタジアムにまっすぐ繋がっているかのようだ。
「100メートル決勝が終わったあと、記者から“隣の桐生選手のことは気になりませんでしたか?”という質問があったとき、“はぁ? な、なんの話ですか?”というような反応だったんですね。“そもそも周りの人はまったく気にしていませんので”ということでした。その一方で、桐生はサニブラウンをかなり意識していたと思いますよ。走る前も彼の方ばかりを見ていましたからね。残酷な言い方になりますが、サニブラウンは桐生たちをライバルとは思っていないんですよ」
17年8月の世界選手権で、世界記録保持者のウサイン・ボルトに引導を渡したジャスティン・ガトリンも、NHKの番組で似たような話をして、自身の快走を振り返っていたことがある。
〈自分の周囲が薄くぼやけて自分が走るレーンだけ見える“集中状態”だった〉
〈子供の頃のようにタイムや他の選手を意識せず走っていたんだ〉
超然とした心構えが結果に繋がっているということになるわけだが、ともあれ、再び記者の話に戻ると、
「サニブラウンとしては、“こんなところで負けていたら話にならない、こんなところで負けるはずがない”と思っている。それは普段から言葉の端々に出ているんですけれど、とはいえビッグマウスと感じさせない余裕と風格、そしてなによりも実績がある。彼が活躍の場とするアメリカには9秒台の選手はたくさんいて、日々、受ける刺激が格段に異なる。もう小池、桐生は追いつけない。格が1人だけ違いましたね」
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