「虐待は他人事じゃない、自分もする可能性がある」と幸せな家庭の一児の母が気づいた日

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実母からの育児に対する口出しがプレッシャーに

 真奈美さんの育児ノイローゼに拍車をかけたのは、絵美ちゃんの取り扱いの難しさだった。

「それでもまだ、あんまり動かない頃はよかったんですけど、6カ月くらいになって、みんなベビースイミングとか始めるじゃないですか。わたしもその理想にのっとって、娘とそういうことをしたら楽しくなるかもしれない、と思って申し込んだんです。

 けど、娘は車のチャイルドシートが大嫌いで。『エクソシスト』に、悪魔に憑依されて暴れる有名なシーンがありますよね。ああいうふうになるんです。力いっぱい抑え込んで、『乗って!』って無理やりベルトを締めたんですけど、それでも反発してくる。だから結局1回しか通えずに、これもまた理想と違ったって。毎回出掛ける度にそういう感じだから、出掛けること自体が嫌になってしまった」

 思い描いていた理想とは程遠いどころか、自分だけが上手く出来ないのだから、当然のこと、傷つくし、追い詰められる。夫は頼りに出来ず、相談できる相手もいない。真奈美さんの場合、実母の存在もストレスになった。

「自由に育児させてもらえなかったんですよ。『わたしの時は、哺乳瓶の消毒はこうだった』とかいちいち言われて。わたし、6歳年上の姉がいるんですけど、すごく出来がいい人なんです。英語も堪能で、ずっと比較されて育ってきたし、母親もわたしだけをすごく叱るんですよね。『お姉ちゃんができるのになぜあなたは出来ないの』って。だから、子どもの頃から『わたしとお姉ちゃんを比べないで』という劣等感がわたしにあるんです。なのに、いまだに、こういうのが来るんですよ」

 真奈美さんが見せてくれたのは1通の手紙と、育児に関する情報が掲載されている、新聞の切り抜きだった。

「この手紙はまだ、読んでないんですけど、どうせ育児に対する口出しが書いてあるんですよね。親はこうあるべきとか、元旦那が年上だから貯金をしておかないと老後が……とか、すごいプレッシャーを与えてくるんです。こういう手紙が、妊娠中から来るようになって、子どもが生まれてからさらに激しくなった。今年のわたしの誕生日には、自分の苦労話を切々と書いた手紙が届いたし、電話で話せば、『あなたに将来はない』、『あんたの育て方を間違えた』って、そういうマイナスの話ばっかりするんです。だから、親にわたしから電話をすることはないですね」

 こうして、夫にも、実母にも頼れない状況に追い詰められた結果、絵美ちゃんに対して、手や足が出てしまうようになり、やがてそれが恒常化していった。

「(暴力をふるうことに)麻痺するんです。言うことを聞かないっていうんで、頭も叩いたし、顔も叩いた。お風呂入らないってごねるので、裸で外に出したこともありますね。玄関の外に出して『帰ってくるな』って鍵をかけて。幼稚園に入った当時は蹴ってました。叩くよりも足のほうが出やすいっていうのがあったし、手で殴るよりも目立たないじゃないですか、足で蹴る場所って。朝、幼稚園に行く時とかに『早くしろよ』とか、そうやって、蹴ってました」

 そうしたある日、大事件が起きてしまう。2年保育で幼稚園に入ったばかりの頃だった。

〈次回に続く〉

大泉りか(おおいずみ・りか)
1977年東京生まれ。2004年『FUCK ME TENDER』(講談社刊)を上梓してデビュー。官能小説家、ラノベ作家、漫画原作者として活躍する一方で、スポーツ新聞やウェブサイトなどで、女性向けに性愛と生き方、子育て、男性向けに女心をレクチャーするコラムも多く手掛ける。『もっとモテたいあなたに 女はこんな男に惚れる』(イースト・プレス 文庫ぎんが堂)他著書多数。2017年に第1子を出産。以後育児エッセイも手掛け、2019年には育児に悩む親をテーマとしたトークイベント『親であること、毒になること』を主催。

2019年7月9日掲載

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