日本人の“京都離れ”が進行中、インバウンドがもたらす「観光公害」という病

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 日本政府は、東京オリンピックが開催される2020年に訪日外国人観光客数4000万人の誘致を目指している。18年度は約3200万人だったから、2年で800万人増やすということになる。ところが、

「こうしたインバウンド(訪日外国人旅行)の増加は、旅行者による消費拡大という恩恵をもたらしますが、一方、マナー違反や環境破壊、住宅価格の高騰という副作用も生みます。それが観光公害です」

 と、解説するのは、7月1日に『観光公害―インバウンド4000万人時代の副作用』(祥伝社新書)を刊行した、京都光華女子大学キャリア形成学部教授の佐滝剛弘氏である。同氏は、元NHKディレクターで、NPO産業観光学習館専務理事も務め、著書に、『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『日本のシルクロード―富岡製糸場と絹産業遺産群』(中公新書ラクレ)などがある。

 佐滝氏は1年前から京都で暮らしているが、

「観光公害で、近年、特に酷いのが京都ですね。日本人の間でも人気の高い清水寺、金閣寺、伏見稲荷は常に初詣のように人が溢れています。これだけ多いと風情が失われてしまいます」

 京都に宿泊した外国人観光客の数は、00年で40万人だったが、10年にほぼ倍に増加。11年の東日本大震災で52万人まで下がったが、翌年から右肩上がりとなり、17年ではなんと353万人にまで増えているのだ。ところが、外国人観光客の増加に伴い、日本人の“京都離れ”が加速してきた。主要ホテルでの日本人宿泊数は、近年で毎年4%前後のマイナスとなっているが、18年は9・4%も落ち込んだ。

 何故、日本人の“京都離れ”が始まったのか。

「紅葉の季節になると、どの寺院も外国人客が押し寄せて、“穴場”というものが無くなってしまいました」

 京都駅からJR奈良線で、1駅で行ける東福寺はどうか。『観光公害』から一部を紹介すると、

〈18年11月の、とある平日。(中略)東福寺の境内は立錐(りっすい)の余地もない、と言ってよいほどの混雑ぶりであった。(中略)ざっと見たところ、あくまでも私見であるが、観楓(かんぷう)客のほぼ半数が中国を中心にしたアジア系。欧米人の姿もかなり多い。もちろん、日本人にとっても、訪れたい紅葉の名所として名高いはずだが、全体の3割くらいしかいない感じである。東福寺は境内に入るだけなら拝観料は不要だが、紅葉シーズンは、紅葉見物のハイライトと言える「通天橋(つうてんきょう)」を行き来するルートが有料となる。にもかかわらず、橋の上はまさに身動きが取れないほどの混雑で、しかもほぼ全員が一眼レフカメラやスマホで一方向に身を乗り出すようにして、紅葉の風景とそれをバックにした自分やグループの写真を撮ろうとする。自撮り棒を使っているのは、ほぼ中国系の観光客と見てよいだろう〉

 紅葉だけでなく、4月の桜の季節は、さらにすごいことになるという。

「海外でも、日本の花見はブームになっています。祇園は、京都観光の中で一番の人気エリアですが、桜の季節はすごいですよ。町家が連なり、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された祇園白川は、桜がひときわ美しいので、16年には30万人もの観光客が殺到。身動きが取れないほど混雑し、車と接触する危険が高まったほか、写真を撮るために桜の枝や花を折ったりするマナー違反が相次いだため、17年のライトアップを中止しました。今年は警備を強化してライトアップは再開されましたが、マナー違反は続いています。白川沿いの通りには竹垣があり、それにもたれたり座るのは禁止されているのですが、平気で座って写真を撮っている中国系の観光客をよく見かけます」

 市バスも大変なことになっている。

「JR京都駅烏丸口のD1乗り場は、清水寺、祇園、平安神宮を経由して銀閣寺に向かうのですが、観光客が大行列をつくり、バスを2本見送らなくては乗れません。バスは7、8分おきに来ますから2本で15分ほど待つことになります。観光客は、15分くらいどうってことのない時間ですが、市民への影響は大きい。私は京都の大学で観光学を教えているのですが、学生から、『バスが2台続けて満員で、バス停を通過してしまって遅刻しました』と言われれば、怒りづらいですね」

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