なぜ「出生前診断」を拡大したがるのか 新聞が報じない「命の選別ビジネス」裏事情

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 ダウン症を始めとした胎児の染色体異常を、妊婦の血液から調べる「新型出生前診断」をめぐって、関係者間で動揺がひろがっている――。日本産婦人科学会(日産婦)が“認可”施設を拡大すると報じられたのは今春のこと。ところが一転、先月になり拡大は見送りに。関係団体からの反発が主な理由とされるが、なぜ日産婦は施設を増やしたいのか。

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 2013年から日本でも始まった新型出生前診断。妊婦が認可施設で検査を受けるためには、いくつかの条件が設定されている。

「分娩時の年齢が35歳以上の高齢出産であるとか、夫ないしパートナーと共に検査に関する遺伝カウンセリングを受けるといったものです。年齢制限を設けているのは、陰性ではない、分かりやすく言えば、お腹の子がダウン症じゃないのに陽性反応が出る“偽陽性”が、35歳未満では出やすいから。カウンセリングを徹底するのは、検査への理解を深めるため、とされています」(医療ジャーナリスト)

 検査で陽性が出た場合は、羊水検査などの確定診断へ進むことになるが、検査で異常が見つかった妊婦のうち、90%以上が中絶を選ぶともいわれる。出生前診断が“命の選別”と批判的に呼ばれる理由はここにある。

 現在、認可施設の数は、日本全国におよそ90。一方、こうした制限がなく、希望さえすれば安価に検査を行える施設が、近年増加している。無認可、あるいは認可外と呼ばれる施設の存在だ。

 認可施設拡大の動きが生じた経緯について、先のジャーナリストが続ける。

「3月2日、認定施設条件を大幅に緩める案が、日産婦の理事会によって了承されたと報じられました。条件を緩めれば、当然、公認のもと検査を行える施設が増えるわけであり、これが“拡大”と言われたわけです。ところがその直後から、日本小児科学会や日本人類遺伝学会といった関連団体から、拡大について事実上の反対声明が出された。6月21日になり、厚労省が日産婦に対し、各所ときちんと議論するよう要請。日産婦は拡大を見送ることとなりました」

 3月3日付「朝日新聞」では、日産婦が拡大を行う背景について、

〈日産婦は緩和の理由に、認可外施設の存在を挙げる。学会(編集部註:日産婦)のルールと関係なく相当数の検査が行われているとみられ、結果の説明が不十分で妊婦が戸惑う事態も起きている。日産婦は連携施設を増やし、認可外で検査を受ける妊婦を減らしたい思惑がある〉

 と報じている。拡大に反対する理由は、一見なにもないはずなのだが……。

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