「水素ガス吸入器」で認知機能が向上? お値段350万円、「エビデンスない」指摘も
エビデンスがない…
テレビなどでお馴染みの姫野友美医師も、
「私のクリニックでは水素吸入を不眠症の患者さんに使っています。私自身、週1回、ストレッチのあとに水素吸入をしていますが、夜はぐっすり眠れます」
と語るが、水素吸引の効果を、だれもが手放しで礼賛するわけではない。山形大学理学部物質生命化学科の天羽優子准教授は、
「水素吸引は、体内に吸引できる水素の量が水素水とくらべて圧倒的なので、なんらかの効果が出るかもしれません」
と言いつつも、
「クリニック等で腰痛、高血圧、疲労回復などさまざまな効果があると喧伝されているようですが、言い過ぎではないでしょうか。たとえば、水素吸引の腰痛への効果の根拠となる論文がないのなら、その効果を考えるだけ無駄です」
また、『暮らしのなかのニセ科学』の著書がある法政大学元教授の左巻(さまき)健男氏は、
「水素吸引が健康によいのであれば、どのくらいの量を吸引すれば、どの病気にどんな効果がある、ということを示すべきです」
と、さらに手厳しい。
「現状は、たくさん吸えばなんとなく健康によいという感じで、エビデンスがない。水素吸引で認知機能レベルが向上したと結論づける論文は、参加者が17人しかいないのが問題です。鎌倉市の職員を対象にした調査もそう。ストレスの自覚はそのときの気分に左右されるもので、参加者が、これだけ根気の要ることをやったのだから効果が出てほしいと期待し、よい結果が出たように回答してしまうのは、当然でしょう。多くのスポーツ選手が吸引しているといいますが、スポーツ選手にとって水素吸引は、ゲン担ぎにすぎません」
そして、こう結ぶ。
「今後、がん治療に有効だと言われないかと心配です。末期がんで藁にもすがる思いの人が、水素吸引でがんが消えると聞けば、なにも考えずに飛びつくでしょう。ほかの治療を受けず、水素吸引だけにこだわったばかりに、命を落としてしまうかもしれません」
ちなみに、がん治療に導入し、症例を貯めていると前回紹介したくまもと県北病院機構玉名地域保健医療センターの赤木純児院長の治療法は、
「水素ガス、ハイパーサーミアという温熱療法、オプジーボ、あとは少々の抗がん剤を使って総合的に治療するというもの」
だという。「水素だけ」にこだわれば、危険なのは当然だろう。
「水素が効く、効かない、という議論をしても、今の段階では水掛け論になってしまいます。水素は体にいいらしい、副反応はないらしい、ということであれば、とりあえず、それぞれの判断で取り入れてみてもいいのではないでしょうか」
と“仲裁”するのは、慶應大学医学部循環器内科准教授で水素ガス治療開発センター長の佐野元昭氏で、吸入器については、こうアドバイスする。
「水素がある程度の濃度で出て、水素以外の問題ある物質が出ない、ということを基準に、あとはライフスタイルに合ったものを選べばいいでしょう」
副作用がないなら、まずは試してみるか、否か。玉三郎と同じ吸入器も、高級車を買うと思えば安い――。そう思える人は、どうぞ。
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