罵声禁止、短時間練習、合理的指導…こんなチームがあったのか! 少年野球の現場で悩む父親ライターの正直な報告
千葉や東京など遠方から体験入部に来る親子も
ところでチームには代表の岡本さんのほか監督がいる。取材当日は不在だったが、代表、監督ともに不在のことも珍しくないそうだ。
「練習メニューから選手の起用や交代まで実質的にチームの権限はコーチにあります。監督もコーチの決定を尊重します」(岡本さん)
そこまでコーチができると、監督のすることがなさそうだが……。
「監督にはとても感謝しています」と話す岡本さんの説明によると、監督は選手の父兄から選ばれる。子どもを入れているから春日の理念を十分に理解しながらも、前に出すぎず、保護者を束ねる仕事を担っているそうだ。
ちなみに岡本さん自身は創立以来、野球自体の指導はしていない。理念や方針を決めて、現場は専門家のコーチに任せる。プロデューサーといったところだろうか。
短い練習時間であるものの、勝利を求めていないわけではない。「努力や工夫は勝つというモチベーションがないと生まれません。世の中に出たら競争だらけなわけですし」
部員約50人はいまどき大所帯だろう。それだけ集まる背景には、チームの理念が大きいはず。現に千葉県や東京都など遠方から体験入部に来る親子もいるという。
他チームから移籍してきた親子(父親Iさん、選手Aくん=6年生)に話を聞いてみた。
「5年生になるときに移籍しました。それまでいたチームは練習時間が長くて土日2日間、終日です。4年生までは午後は自主練習なのに全員出るので……」(Iさん)。練習後、へとへとのAくんは帰りの車中で寝てしまう。宿題もできなかったりする。5、6 年生はさらに厳しくなることはわかっていたから決断した。
長時間練習を避けたわけである。
「移籍は正解でした。上達という観点では、親子で集中して自主練習をする時間が増えたので問題ないです。全体の練習が短いからうまくならないとは感じません」とIさん。
以前のチームは罵声もあり雰囲気はピリピリ。ところが春日はちがう。院生コーチの指導にも魅力を感じたという。当のAくんに「前のチームから替わって、楽しいですか」と尋ねると、「はい」と即答。
「何が変わりましたか」
「好きなことができるようになって楽しくなりました」
Aくんはかねて他のスポーツもやってみたかったのである。現在は日曜日に陸上クラブで楽しんでいる。練習が終わると、「またやりたいなと思います」と話すAくん。「また」と思えることは、いわゆる「モチベーション」なのだろうけれど、岡本さんはこの点について言うのだった。
「モチベーションの循環が大事です。ウチの選手は常に野球に飢えている。それが週末4/1にしていちばんよかったこと。感覚的にこれで十分だろうと決めましたが、腹六分目といったところなので、みんなやる気を顔に出してグラウンドに来ます。雨が降って練習ができないと、心底残念がりますね」
すみません、筆者、少年野球の頃は雨が降ると内心喜んでいました……。
ところで強弱で言うと春日はどうなのか。つくば市内で中位と岡本さんは言うが、質問をした自分を恥じた。強弱なんて、二の次である。あの強豪チームには、小学生ばなれした速球を投げる投手がいて、でもその選手は肘を壊した—— そんな噂を聞きもする。練習、試合と量を求め、使い込めばケガだってする。
「私たちの活動は、健康な状態で中学校に送り出すのが大前提です」と岡本さん。試合での球数制限は大会で設けられている。でも練習の投球数まではカウントしていないだろう。土日の終日練習がケガにつながる疲労を蓄積させるのじゃないか。
[2/4ページ]