「コメダ珈琲」が三菱商事とタッグ、もともと米屋なのにメニューに“ご飯モノ”がない理由

ビジネス 企業・業界

  • ブックマーク

 コメダ珈琲の勢いがとまらない。

 昨年8月に沖縄県に初出店、この6月7日に最後の空白県だった青森県に出店して全国制覇を果たした。店舗数は、860店を上回り、「スターバックスコーヒー」の1393店(2019年1月現在)、「ドトールコーヒーショップ」の1143店(同前)に次ぐ3位にまで浮上した。そんな中、今度は総合商社大手の三菱商事とタッグを組むというのだ。

「コメダ珈琲を展開するコメダホールディングス(HD)が6月12日、三菱商事と業務提携をすると発表しました。両社の接点は昨年9月、コメダHDがサステナブル(環境破壊をしないで維持できる)なコーヒー豆を求めていたところ、三菱商事が出資しているシンガポールの農産物商社『オラム・インターナショナル』を調達先として引き合わせたのがきっかけです」(業界誌記者)

 コメダHDは、6月末に自己株式の約8億9000万円を第三者割り当てで三菱商事に売却、三菱商事から人材を受け入れるという。コメダコーヒーは現在、中国に2店舗、台湾に3店舗を展開しているが、

「海外事業は数人で回しているのが現状です。今後は三菱商事の協力を得て、中国、台湾、東南アジアへの進出を加速するでしょうね」(同)

 中国や台湾の店舗は、日本と同様のサービスを提供していて、内装も日本と同じ。コメダ珈琲の“名古屋式サービス”は現地でも好評だという。何故、こんなに人気があるのか。

「もともと、コメダ珈琲は、米屋だったんですよ。それでコメダと」

 と語るのは、カフェとレストランの専門月刊誌「CAFERES」編集部の井上久尚部長である。

「名古屋でものすごく流行っている店だったので、1985年にコメダ珈琲創業者の加藤太郎さんに取材したのですが、当時はまだ5店舗だけでした。加藤さんによると、地域を限定して出店するドミナント戦略を採用していました。コメダ珈琲はいまや愛知県だけで230店舗まで増やしましたからね」

 コメダ珈琲は、98%がフランチャイズチェーン店となっているが、

「郊外型フランチャイズの条件は、駐車場でした。駐車場を確保できれば、客が来るという発想です。もともと米屋でしたから、あちこちに倉庫用の土地を所有しており、その土地を活用して駐車場を作り、店を出したというのが始まりですね」(同)

 コメダ珈琲は、1980年代後半から勢いがついたという。

「喫茶店がピークを迎えるのは81年です。その前には、コーヒー専門店ブームになり、炭火とか焙煎が持て囃されました。ところが、81年を境に喫茶店の数は減り続け、バブルになって土地の価格が高騰すると、駅前の喫茶店はコーヒーだけでは利益が出せなくなり、どんどん撤退していきました。ところが、コメダ珈琲は逆に店舗数を増やしているのですよ」(同)

 バブルでも業績を伸ばせたのはなぜか。

「喫茶店の中で、コーヒーが一番安い商品なのですが、一番、手間、労力がかかります。これでは人件費がかかって利益が出せない。そこでコメダ珈琲は、コーヒーは専用の工場で淹れて、ポリタンクに詰めて各店に配送しています。店ではホットは温め、アイスは氷を入れる。そうやってコストを下げる。逆に値段の高いカツサンドのカツは、店で揚げています」(同)

 愛知県の喫茶店といえば、モーニングサービスが有名だが、

「喫茶店でないスーパー銭湯でさえモーニングサービスをやっているほどの激戦区となっていますが、コメダ珈琲は他店と差別化を図りました。通常のモーニングサービスのパンはトーストですが、コメダ珈琲はクロワッサンとか菓子パンなどパンを選ぶことができます。さらに、バナナをつけたり、お土産に餡パンをもらえたりと他店にはないサービスを行ったことです。もともと米屋なのだから、ご飯類はなぜ出さないのか疑問に思うかもしれませんが、ご飯モノを出すと飲食店と競合するので、敢えてメニューに入れてないそうです。喫茶店の食事の定番といえばカレーライスですが、カレーを出さなかったのは、愛知県にCoCo壱番屋の本社があるからですね。あくまで独自路線を貫いたということでしょう」(同)

 さらに、コメダ珈琲の強みは、名物料理である。

「85年に取材した時すでに出ていましたが、温かい64層の丸いデニッシュパンに冷たいソフトクリームが乗ったシロノワール。食べたことがなくても名前を聞いたことがある人はいるでしょう。地域によって、色んなバージョンがあります。それから、みそカツサンド。これは名古屋ならではのものです。こんな名物料理があると、リピーターが増えますよ」

 客層は、中高年が多いという。

「朝の7時は、モーニングサービスを目当てに中高年の客で一杯です。夜も満席になっています。スターバックスやドトールなどと違って、ゆったり座れるし、フルサービス。年配者には気取らなくて落ち着ける場所ということで、これが追い風となって全国でも通用する店になったのです」(同)

 海外展開も日本同様うまくいくか。

「アメリカは、古くからコーヒーショップがあって、コーヒーだけでなく軽食も食べることができた。コーヒー専門店はすでにスタバがシェアを取っていますから、そこへ割り込むのは難しいかもしれません。中国や台湾、東南アジアであれば、日本のような展開も可能かもしれませんね」(同)

週刊新潮WEB取材班

2019年6月30日掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。