故「内田裕也さん」に足かけ7年取材 編集者が見た“スクリーン上のロックンロール”

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クサい芝居、ダメなんだよ

 映画に出演する際、事前に内田はいつも「俺に演技指導はするな」と監督に伝えていたそうだ。

「演出に関わる大きな部分を任せろと言っているわけですから、乱暴に聴こえるかも知れません。でもロックンローラーとして絶対に譲れない部分があるからこその、言葉なんだと思うんです。たとえば、女たらしの売れない歌手から逆ソープのホストにまで転落する男を演じた『嗚呼! おんなたち 猥歌』(81)では、〝感性に忠実な″演技を見せるんです」

 プロからレクチャーも受けて撮影現場に入ったという内田は、件の演技についてこう振り返っている。

《客のエスコートの仕方とか、泡の立て方とかな。でも俺は、そんなベテランのボーイって設定じゃないだろ? だからそこは、あまりうますぎてもダメなんだよ。(中略)「失礼します」ってこうまず、客の下着を脱がしていく。そこはやっぱりちょっと、照れながらよお。よくクサい芝居する奴、いるじゃない? 俺あれが、全然ダメなんだよ。俺の中には小手先の計算なんて、一切ねえんだ。自分の感性に忠実に、その時現場で何をどう、感じたか。それを素直に表現してるだけだよ》(『内田裕也、スクリーン上のロックンロール』より)

「この作品では、役柄としては最底辺まで落ちているわけなんですけれど、裕也さんは決してみじめには見えない。また裕也さんは映画の中で犯罪者を演じることも多かった。たとえば『十階~』では郵便局強盗を決行して、最後は駆けつけた警官に逮捕・連行されていきます。でもここでもやっぱり、妻に逃げられ昇進試験に落第しつづけ借金まみれになった警察官の成れの果てが、まったくみじめに見えない。裕也さんは『ただの負け犬には俺、したくなかったんだ』と、はっきり言っていました。観客の目に、善悪を超えた何かを突きつける……それが映画・音楽といったジャンルを超越した裕也さんの、ロックンロールという表現だったように思うんです」

 そんな平嶋氏に、内田裕也出演作のベストスリーを挙げてもらうと……『桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール』(78年)、『スーパーGUNレディ ワニ分署』(79年)、『ヨコハマBJブルース』(81年)というチョイスが返ってきた。

「『桃尻娘』の裕也さんはムショ帰りの男を演じていますが、正味20分くらいしか出ていないんじゃないかな? とにかく、いきなりスクリーンに現れて、電車のトイレで濡れ場を見せたかと思うと愛人を刺して、塀の中にUターンしていく……ただそれだけなのに、“内田裕也の映画”にしてしまう「迫力」ですよね。『スーパーGUNレディ~』では銀行強盗の主犯役なんですが、不死身なんです! 主人公の女刑事に真正面から何発も何発も撃たれても、死なない。物凄い形相で一歩、また一歩と彼女ににじり寄っていく……もうギャグすれすれなんですけれど、とにかく強烈なインパクトはある。『ヨコハマ~』は裕也さんと松田優作の共演作。かつてNYで生活を共にした親友で、いまは探偵を刑事という二人の間柄から、実際の裕也さんと松田さんの関係を連想してしまいます。毎晩のように飲み歩いていた時期もあったみたいですね。刷り上がったばかりの『十階~』の脚本を持って裕也さんがまず向かったのは、優作さんのご自宅だったそうですし」

 その松田優作は“優作氏”。ビートたけしは“タケちゃんマン”、勝新太郎は“勝のオヤジ”。こうした呼び方にも、内田裕也の友情・愛情表現のユニークさを感じると平嶋氏はいう。

 生前に交流があったあのジョン・レノンは“ジョン”で、オノ・ヨーコは“ヨーコ”さん。酒と睡眠薬の酩酊状態で帰宅したところを、鉄パイプを持った“希林さん”と“本木”にタコ殴りにされた……本書で内田は、そんなエピソードを語ってもいる。

《あのジョンに、「お互い強い女と結婚したな」って言われたことあるのよ。「We are very tired…」って俺、溜息ついたらジョンも、笑ってたけどね》(前出『(『スクリーン上のロックンロール』より)』)

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